Published: 2025-04-10 19:00

「僕は限りなく王道に近いところを歩みたい」TAMMEデザイナー、玉田達也が初のランウェイを終えて語る

ファッションとは何か、という問いへの答えは無数にある。そのなかのひとつ、“コントラスト“という答えは王道だ。光と影が生み出す明暗はすべての人々にとって永遠のテーマとなり得る。相反する対象をいかに組み合わせて表現するかは、現代におけるモードのテーゼでもある。

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2025年秋冬コレクションを初のランウェイ形式で発表したタム（TAMME）。今シーズンのテーマは“nocturnal forward”。直訳すると“夜の前進”。暗闇から前へ、といったところだろうか。闇から光への「コントラスト」は、ドレスコードがガイドラインに据えられた。

“コード”を理解し、再構成することで、アイテムのあらたな一面を生み出す。その姿勢は音楽におけるJAZZの“コード”とスケール及びモードの関係にも通じている。新しさは破壊ではなく、理解と分解であり、再解釈、再構築から生まれる。

好きな音楽は「シューゲイザー」だと、はにかみながら答えたデザイナー、玉田達也の足元には我々には見えない新旧さまざまなアタッチメントが敷き詰められている。

新人ながら楽天ファッションウィーク 東京の最終日、トリとして初のショーを終えたタムのデザイナー、玉田達也に話を訊いた。

──初のランウェイでコレクションを発表した感想を聞かせてください。

ショー自体は昨年、「東京ファッションアワード 2025」を受賞してフィジカルでなにか発表しなければならないという規定がある中で、ショーの形式を選択したという経緯があります。インスタレーションやプレゼンテーションという形ではなく、ダイレクトに伝えられるショーという形式でブランドの世界観を見せたいという理由で、ランウェイショーに踏み切りました。デビューして以降、まずスチールで表現してきたのですが、タムの服は正面に加えてサイドやバックスタイルにおけるボリューム、シルエット、ディティールの変化を意識したデザインが特徴です。どこから見ても何かしら発見ができる服なので、お店でアイテムだけ見てもらったり、スチールの2Dだけでは伝えきれていない部分があったので、ランウェイをやるというのはブランドにとって大きな意義のある手段であったと思います。

──ブランドをローンチして4年目という段階でのショーというのは自分の中でのマイルストーンにはありましたか？

正直言うと（ショーを）やるのであれば、もう少し早い段階か、もう少し成熟した段階かどちらかと思っていました、このタイミングというのは予期せぬ、という感想はあります。

──アワードを受賞したということがランウェイを後押ししたということですね？

そうですね。本来、海外で展示会を行う、パリで展示会をやってその反応を見るということが目標だったので。今回、JFWO（一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構）の支援により2年間パリで合同展（showroom.tokyo in Paris）を行えるのは、これまで資料だけで接してきた海外のバイヤーなどからダイレクトな反応を知る事ができてプラスにはなっています。

──今回のショーのテーマを少し聞かせてください。

（社会全体が、）「自由と不自由」「器用と不器用」「安定と不安定」といった正反対の性質の物事が、以前より色濃く共存しているという感じがしています。どちらかを否定するのではなく、ネガティブさもポジティブさも一度受け入れて自分の中で考えること、そこから自分のなかでより良い選択ができるのではないかというのがテーマの根幹にあります。それを服に置き換え「フォーマル」と「カジュアル」、ことばでは「上質さ」と「粗野さ」といった要素を共存させ、アイテムと生地やスタイリングをミックスしています。

──それはタムのブランド自体のコンセプトとどのように関係していますか？

タムというブランド自体がクラシックという形式やルールのあるものを現代社会でどう解釈するか、どう着るか、どんな気分で着たいかが、ものづくりのテーマになっています。モダンなものに変えていくうえでコンテンポラリーな手法を取っています。例をあげるなら、昔は地図を入れていたポケットを、携帯電話を入れるポケットに置き換えるといった「機能の転換」です。複数のものを混ぜ合わせ、必要な要素を抽出して新しいものを創っていく、というのが学生時代からの僕のクリエーションのベースです。それはタムというブランド名の由来（註）でもあります。

註：フランス語で男性を意味する「homme」、女性を意味する「femme」の共通点にデザイナーのイニシャルを組み合わせて名づけられた。

──タムにとってのクラシックというのはどの時代を指していますか？

クラシックの形式に関して言えば自分にとって1980年代以前。80年代までが年代(decade)としてのカルチャーが確立されてきた時代で、それ以降の90年代、2000年代はストリートという文脈もあるのですが、クラシックのルールをもとにどうするかを考えてきた時代。実際には50年代からそういった考えは入ってきていましたが、参照性、普遍性、形式性を持つデザイン言語として確立されているものをクラシックと捉えています。

──80年代後半から90年代はデジタルがガジェットとして転換していった時代ですね。玉田さんは何年生まれですか？

1988年生まれです。海外ではミレニアル、日本ではゆとり世代の前ですね。僕たちの世代というのは大きなカルチャーを創ったわけでもないし、大きなバックボーンのない世代だと思います。疎外感はあるものの、それが逆に個人が好きなものを自由に選択できるという良さかもしれないと最近思います。

──ファッションを志したきっかけは？

もともと母親の影響で洋裁や手芸的なことが好きでした。小さい頃から針と糸に触れていて、とりわけ絵を描くことが好きでした。なにかしらモノを作る作業が好きだったのですが、その中で構造的に一番興味を持ったのが衣服でした。洋服は表現の源流が川下から川上まで非常に広いことにも興味を持ちました。糸から生地、縫製、ディティール、加工、付属の工程を経てアイテムになり、そこからスタイリング、写真、ムービーを作成し、もう少し大きい範疇ではコミュニティが生まれます。ファッションというのはすごく幅が広くて、それのどこを切り取って、どこからスタートしても、自分でしか方法が見つからないのが面白いと思いました。

──パタンナーという職種を選んだ理由は？

服を知る上で大事なのはまず構造を知ること、仕組みを理解することにより表現の幅が広がると思ったのが大きいです。それはクラシックの規律やルールをベースにクリエイションを考えるというブランドのテーマにもつながっています。表層的なデザインではなく、自分にとってもパターンを知ることは機能が拡張される意味があるので…。日本にいる学生時代は創りたいものを作っていましたが、パリではそれをビジネスに落とし込む上で機能とデザイン、環境と服の関係性などをしっかりと考える重要さを痛感しました。パリにいる間はイエール国際フェスティバルやITSに代表されるコンペ出品への活動を中心に制作しており、言語の問題などもあって挫折感を味わいました。ビジネスやマーケティングに関してもう少し深く考えることができなかったことを今になって少し後悔しています。

──デザイナーを目指す上で賞レースやはり重要な道程なのでしょうか？

大きな賞を取るというのは今の時代において、必ずしもデザイナーになる必須要素だと考えていません。ただ、僕は限りなく王道に近いところを歩みたいと思っているので、マーケティングを含めてのブランディングがあってこそだと思っています。だからこそ、（アワードやプライズなど）そこでのしっかりした評価が必要だと思っています。

──好きなデザイナーはいますか？

一人挙げるならキャロル クリスチャン ポエルです。ディティールなどに固執する姿勢やデザインは、学生の頃に影響を受けました。実際に当時は商品を買うお金はなかったのですが、代官山のリフトに服をよく見に行っていました。アン ドゥムール メステールをはじめアントワープシックスのデザイナーたち、ラフ・シモンズやAFヴァンデヴォルストなど、あの時代特有の熱量を持ったデザイナーたちは好きです。当時のイッセイミヤケなど80年代の日本のデザイナーたちは、構造をどう変化させるかを考え、何かを変革させようとしていたブランドは等しく参考になります。

──今シーズンのテーマは“Nocturnal Forward”。直訳すると“夜の前進”ですが、シーズンのコレクションを作成する上で最初に決める作業を教えていただけますか？

最初に決めるのはリファレンスですね。何をもとにするのかをまず決めていきます。タムの場合、過去のプロダクトがベースになることが多いので、この年代の服とかこの年代のミリタリーとかから始まります。今回のコレクションの場合は「ドレスコード」なので、ブラックタイやカクテルなど正装に使われるコードとアイテムを抽出しました。例えば側章をどう表現するか、カマーバンドやネクタイをどう巻くか、などです。

──ボンテージパンツもクラシックの「既存の更新」のアイデアなのでしょうか？

ボンテージパンツ自体は24年秋冬から発表しました。ボンデージの形にはなっていますが、もとはミリタリーのゲイターと呼ばれるブーツカバーのディティールから派生してきたものです。フレアのパンツの前後に切り替えを入れてフレアを横ではなく縦に出す構造にして、ブーツカバーのベルトを膝裏に持っていくことでシルエットを変化できて、前から見るとストレートだけれど横から見るとフレアというシルエットに仕上げました。そのディティールを残すことでよりフレアを強調することができるという意図です。

──ショーではネクタイのスタイリングも印象に残りました。

タイはフォーマルの場に必ず存在するもので、結び方や形状はいろいろあるのですが性質自体は全く変わらないアイテムです。それを「既存の更新」をコンセプトに掲げるタムでどう表現するか？ どう遊ぶか？ どう使うか？ が重要だと思いました。ジャケットやパンツではなく、その人のワードローブの中に一番入りやすいアイテムなのかな、と思います。当初スカーフタイとして作っていたものを、襟を正すという意味で2024/25年秋冬に結び目のないタイのデザインで発表。試行錯誤しながら進めてきました。もともとシャツに結ぶ、位置が決まっているなどのルールを崩したくて巻く形にしたのですが、今シーズンはさらに品質を上げています。タイだけではないなのですが、他のアイテムもユーザーが自分なりの着用がアレンジできて、他者との差異を考えられるように機能をどう組み込むかを常に意識しています。

──ショーでは何体かのモデルが本を持っていました。『ココ・シャネルの星座』や『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』など読み込まれた跡のある本は玉田さんが選んだのですか？

そもそもドレスコードはその環境にいないと、それを理解することはできないものです。その環境にいない人たちは例えば「ブラックタイ」とルールを示されれば、まずそれを調べることから始めます。コード（ルール）を知ることで、はじめて自分のスタイルに出来るわけです。ショーでモデルが持っていた本や老眼鏡はその知識や学びのメタファーです。表層的なことだけはなくて知識を合わせ持ちましょうという、メッセージを込めています。映画『ブレードランナー』の原作本（『アンドロイドは電気羊の夢を見るか？』）や、アルベール・カミュの『幸福な死』と貨幣を持たせるなど、自分なりのメッセージを潜ませることができたかなと思います。

玉田達也 1988年生まれ、福島県出身。文化服装学院服装科、デザイン専攻、ファッション高度専門士科を経て、パリに留学。帰国後の2015年から、コレクションブランドのメンズパタンナーとして6年間働く。2021年に独立してタムを立ち上げ、秋冬コレクションを発表。ブランドコンセプトは “既存の更新” 衣服の歴史やカルチャーに即したプロダクトに焦点を当て、固定観念にとらわれずに 現代に再構成する事で、 クラシックとモダンを内包した多様性のある衣服を提案する 。「東京ファッションアワード 2025」を受賞。