Published: 2025-03-07 20:40

新型マツダMX-30ロータリーEVが、“日本の宝”であるワケとは？

一部改良を受けたマツダの新しい「MX-30 ロータリーEV」を、サトータケシがテストドライブ。唯一無二の国産SUVのアップデートをリポートする。

【写真を見る】新型MX-30ロータリーEVの細部（23点）改良点はココだ!!!

マツダのオフィシャルホームページを開いてMX-30の車種情報にアクセスすると、“自分だけの扉を開こう。”というキャッチコピーが目に入る。後席ドアが観音開きという、個性的なスタイルにかけたフレーズだろう。

もうひとつ、MX-30にはマツダの電動化の扉を開くという役割もある。マイルドハイブリッド、BEV（バッテリー式電気自動車）に続き、2023年にはプラグ・インハイブリッドが加わったのだ。それが今回試乗したモデルで、「ロータリーエンジンが11年ぶりに復活」ということで話題となった。ただしロータリーエンジンは発電に専念、駆動はモーターが担当する。

試乗するMX-30ロータリーEVは、受け取った時点でたっぷりと充電されていたので、システムを起動してもロータリーエンジンは始動せず、まずはモーターだけで走るBEV走行でスタートした。

「NORMAL」「EV」「CHARGE」の3つのドライブモードがあり、デフォルトの「NORMAL」はバッテリー残量が50%まではEV走行がメインで、充電が半分を切るとエンジンが稼働して発電を行う。

モーターの最高出力は170psあるけれど、車重も1780kgとなかなかなので、特別にパワフルだとは感じない。ただ、アクセル操作に対して気持ちよくトルクが盛り上がり、ドライバーの意思どおりに加速するあたりは、うまくチューニングされている。BEVだからといって「ドン！」という加速で差別化を図るのではなく、人の感性に寄り添うセッティングを施しているあたりに、マツダらしさを感じる。

「NORMAL」モードでも、アクセルペダルを深く踏み込むと、ロータリーエンジンが始動する。ここで「おっ!?」と、思ったのは、2年前の登場直後に試乗したときよりも、明らかにエンジンの音が静かになっていたからだ。

あの時は、プラグインハイブリッドの発電機用に開発された排気量830ccの「8C」型ユニットのメタリックな音が気になって、ロータリーの復活を心から祝福する気持ちにはなれなかった。

けれども今回は違う。ロータリーエンジンのメリットは、まずコンパクトで高出力なこと。また、ピストンが垂直運動を繰り返すレシプロエンジンと異なり、おむすび型のローターが回転するロータリエンジンは回転フィールがまろやか。2年前に試乗した時よりも格段に室内が静かになったことで、「トゥルルルル」というロータリー特有の感触を心地よく感じることができた。

ロータリーエンジンのデメリットは燃費と排ガスだったけれど、効率のよい回転領域で一定の回転数を保つ発電機として使うのであれば問題はない。このクルマは、ロータリーエンジンの新しい扉も開いたことになる。

と、いったようにどうしてもパワートレインにばかり目が行ってしまうけれど、大人っぽいハンドリングもこのクルマの魅力だ。足まわりはほどよく引き締まっており、ハンドル操舵に対する反応が正確だ。いっぽうで、路面の不整を乗り越えた瞬間にはしっかりと衝撃を吸収して、室内に伝わるショックを緩和している。

スポーティなハンドリングと快適な乗り心地のバランスが絶妙で、このあたりもしっかりとチューニングされていることが伝わってくる。2年前に試乗したときにはもう少し乗り心地が粗かった印象があるから、パワートレインと同様に、日々改良が続けられているのだろう。

最初からこの状態まで煮詰めて発表してほしかったという思いがあるいっぽうで、コツコツと地道に改善する姿勢が良心的だとも感じる。難しい。

「CHARGE」モードを選ぶと、100%から10%刻みでどこまで充電するのかを選ぶことができる。当然、このモードだとロータリエンジンが活躍する場面が多くなる。

「トゥルルルルルル」を、肌で感じながら、まさに“人馬一体”の好ましいハンドリングのこのクルマを操っていると、ロータリーエンジンで駆動するライトウェイトスポーツカーがあったら……。

という妄想がふくらんでくる。だってこの「トゥルルルル」は、世界中の自動車メーカーが断念したなか、マツダだけが実用化できた日本の宝なのだから。