Published: 2025-09-10 20:10

ドラマ『北極星』はカン・ドンウォンとチョン・ジヒョン共演──『別れる決心』『愛の不時着』『涙の女王』などのスタッフが集結したサスペンスとシスターフッドが入り交じる新感覚韓ドラ！

本作で初共演となるチョン・ジヒョンとカン・ドンウォンに加え、韓国を代表する実力派俳優が勢揃いしたドラマ『北極星』。俳優陣だけでなく、脚本は『シスターズ』のチョン・ソギョン。演出は『ヴィンチェンツォ』のキム・ヒウォンなど、スタッフにもスターが勢揃いした。スリリングな展開に思わずイッキ見してしまう、この秋必見の韓国ドラマをレビューする。

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ディズニープラスオリジナル韓国ドラマシリーズ『北極星』は、本格政治サスペンスとスパイアクションが壮大なスケールで重なり合い、ストイックな大人のロマンスをまじえつつ、途切れることない緊迫感で展開される超大作だ。現在の韓国の作り手たちの底力を感じさせる、リアリティあふれる作りこまれた画面にも目を見張るが、何しろスタッフとキャストの名を聞いただけで、期待せずにはいられない。

脚本は『別れる決心』（2022）などパク・チャヌク監督との名コンビで知られるチョン・ソギョン。しかしここではパク・チャヌクの傑作群のみならず、観はじめたらやめられないという点で、むしろドラマ『シスターズ』（2022）での彼女の優れた仕事を想起すべきだろう。演出はいま述べた『シスターズ』のほか、『愛の不時着』（2019-20）、『ヴィンチェンツォ』（2020）、『涙の女王』（2024）などのヒット作に名を連ねるキム・ヒウォンと、映画『犯罪都市 PUNISHMENT』（2024）のホ・ミョンヘン。そして何と言っても長いキャリアを誇るふたりの大スター、チョン・ジヒョンとカン・ドンウォンの初顔合わせである。脇を固めるキャストも韓国映画界を代表する俳優ぞろいだ。

■壮大な政治サスペンス、強く魅力的な女性たち

元国連大使のムンジュ（チョン・ジヒョン）の夫で、野党大統領候補であるジュニク（パク・ヘジュン）が、教会のミサの場で銃撃されるところから物語は始動する。緊急手術の甲斐なくジュニクは死亡。ムンジュは夫の遺志を継ぐべく大統領選への出馬を決意する。一方、銃撃の現場には国籍不詳の謎の男、サンホ（カン・ドンウォン）が居合わせていた。ある理由からムンジュのボディガードとなったサンホとともに、ムンジュは夫の死の真相を探っていくのだが、その背景には朝鮮半島全土を、さらには全世界を揺るがしかねない危機が横たわっていた……！

ムンジュはサンホをボディガードに雇うが、ただ「守られる」だけの女ではない。パワフルな女性が登場する作品が作りたかったと製作陣は語っているが、そのとおり、ムンジュは強靭な意志と冷静な知性で道を切り開く人物で、現代のヒロインにまさにふさわしい。出馬の意思を表明したのち、ムンジュの乗る列車の座席に爆弾が仕掛けられるくだりがある。このときムンジュは、周囲をパニックに陥らせないため、動揺を決して顔に出さない。その一方で、銃弾に倒れた夫をかばい、真っ白なスーツを夫の血に染めて、両腕を広げて銃撃犯の前に身を投げ出す第1話のムンジュの姿は、彼女の内にある人間的で情熱的な部分を余すことなく表現し、観る者の心を強く打つ。演じるチョン・ジヒョンの名を聞くと、出世作である『猟奇的な彼女』（2001）を思い出す人が多いだろうが、今作で想起されるべきは『暗殺』（2015）の彼女だろう。チョン・ジヒョンのカリスマあってこその名シーンだ。

パワフルなのは実はムンジュだけではない。この作品に主要キャストとして登場する女性たちは、現職大統領（キム・ヘスク）も、ジュニクの母である大企業会長（イ・ミスク）も、ムンジュの補佐官（イ・サンヒ）も、全員度胸が据わっている。第2話の終盤でムンジュは意外な人物と手を組むのだが、このシーンでの彼女と相手のかっこよさにはまったくしびれてしまった。

■スリリングな展開の結末を目撃せよ！

もっぱら映画俳優として活動してきたカン・ドンウォンが、21年ぶりにドラマ出演したことも話題である。多彩なキャラクターを演じてきた彼だが、影を持つ孤独なキャラクター、ミステリアスな人物は得意中の得意というところがあって、サンホ役はまさにはまり役(※1)。彼ならではの俊敏でしなやかな格闘アクションを、久しぶりに披露するのも見どころだ。

ほかにもジュニクの弟の検事役のオ・ジョンセ、国家情報院長役のユ・ジェミョン、米国国務次官補役のハリウッド俳優ジョン・チョーなど、触れるべきキャストは枚挙にいとまがない。『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』（2022）で注目され、TBSの新年SPドラマ『スロウトレイン』（2025）には多部未華子の恋人役で出演したチュ・ジョンヒョクが、ジュニクの、のちにムンジュの補佐官になるチャンヒを演じているのも、日本・韓国両国のドラマのファンには見逃せない点だろう(※2)。

さて、ジュニクはなぜ死ななければならなかったのか。彼は銃撃される前の数カ月、いったい何に関わっていたのか。サンホの過去とは、ムンジュとサンホの関係の行方は、そして世界の運命は。迫真の画面と演技、予測不能のスリリングな展開を、ぜひとも最後までお楽しみいただきたい。

※1 だんだんと明らかになってくることに、どうやらサンホは脱北者らしく、ジュニクとムンジュ同様洗礼を受けたクリスチャンらしい。カン・ドンウォンのフィルモグラフィには、北朝鮮工作員の系譜（『義兄弟 SECRET REUNION』2010）、教会と関わるキャラクターの系譜（『私たちの幸せな時間』2006、『プリースト 悪魔を葬る者』2015、『ベイビー・ブローカー』2022）というのがあって、これらの作品と比較してみるのも面白いかもしれない。 ※2 ちなみにチュ・ジョンヒョクは、『コンフィデンスマンJP』（2018）の韓国版リメイクで、今作と同時期に放送・配信開始される『コンフィデンスマンKR』では、日本版で東出昌大が演じた役に扮し、チャンヒとはまったく異なる顔を見せている。

■『北極星』

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著者プロフィール：篠儀直子（しのぎ なおこ）

翻訳者。映画批評も手がける。翻訳書は『フレッド・アステア自伝』『エドワード・ヤン』（以上青土社）『ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』（DU BOOKS）『SF映画のタイポグラフィとデザイン』（フィルムアート社）『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』（青土社）など。

編集・遠藤加奈（GQ）