Published: 2025-07-27 14:59

“チープ・シック”を今に生かす、松陰神社の古着屋「Comp 」

普遍的なファッションスタイルの価値観を提示した名著『チープ・シック』。高価なブランドに頼らず、感性と工夫で自分らしいスタイルを築くというその考え方は、今も静かに根付いている。そんなチープ・シックの考えを、いまの空気感でリアルに体現しているのが、東京・世田谷区松陰神社前駅近くに6月にオープンした古着屋、コンプだ。無理のない価格で、自分に本当にフィットする服を選ぶ。着る人の視点やバランス感覚が問われる、自由で知的なスタイル。その精神を、日常着としての古着に落とし込んでいる。

【写真を見る】古着屋「Comp（コンプ） 」が提案する、日常に根づくチープ・シックという選び方。

店に並ぶのは、ラルフ ローレンのボタンダウンシャツやディッキーズのスラックス、そして、ヘインズのTシャツなど、スタンダードな古着ばかり。だが、サイズ感やディテールの違いを見極めて選ぶその目線に、店主の石川大樹さんのセンスが色濃く反映されている。

「たとえば、ラルフ ローレンでも、微妙に縮んでるものや、刺繍の位置が通常と違うものとか。そういう“ちょっと違う”ものをあえて選ぶと、急に今っぽく見えるんですよね」

見慣れた定番のなかに、ほんの少しの違和感を仕込む。それがこの店のスタイルであり、“チープ・シック”の精神そのものだ。

「毎日着る服を、ちゃんと選んで買う。たとえば3,000円のシャツでも、サイズや素材、状態を比べて、自分にいちばん合うものを選べば、それはもう立派なスタイルになると思うんです」

コンプが提案するのは、古着だからといって特別なものにするのではなく、普段の服選びと同じ感覚で楽しめるアイテム。派手さやヴィンテージを強調するのではなく、日常のワードローブのなかで、自然に溶け込み、無理なく手が届く価格帯で提供する。

セレクトは、ベーシックな定番アイテムを軸にしながらも、どこかに個性や違和感が漂うものを厳選している。なかでも夏におすすめしたいのが、コム デ ギャルソン オムのドットシャツ。総柄のドットプリントは、遊び心がありながらも決して派手すぎず、ボルドーカラーのポリエステル生地は落ち感があって涼しげな印象を与える。さらりとした質感が汗ばむ季節にも快適で、着心地も軽やか。レギュラーカラーのオーセンティックなシャツの形は、着る人の年齢やスタイルを選ばず、どんなアイテムとも合わせやすい汎用性が高く、単体で羽織れば、シンプルになりがちな夏のコーディネートに程よいアクセントを加え、大人の男性が気負わずサラッと着こなせる。

90年代のポロ ラルフ ローレンのリネン素材を使ったニットポロも、コンプらしいこだわりが感じられる1着だ。ウールやコットンのニットポロが多いなかで、リネン100％という素材は珍しく、清涼感のある肌触りと通気性で、夏の装いにぴったり合う。チンストラップや同素材のエルボーパッチが施されたデザインも秀逸で、さりげないディテールが古着好きにはたまらない。一見シンプルなニットポロは、特徴的なディテールのデザインをピックアップすることで、コンプのチープ・シックの精神を体現している。

「奇をてらわず選ぶ理由がある。飽きずに長く付き合える服って、まさに“チープ・シック”の条件だと思うんです」