Published: 2025-03-07 21:10

“ゲレンデ”がバカ売れするのも納得なワケとは？ 新型メルセデスAMG G63に乗って考えた

大量のバックオーダーを抱える最新の“ゲレンデ”に、サトータケシが乗った！ 人気の理由を考える。

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新しいメルセデスAMG G63に乗り込む瞬間、「カチッ」と音がして気持ちが切り替わった（ような気がした）。

なんせ最低地上高が240mmもある。土足で踏むことを躊躇するほどきれいなメッキ加工が施されてサイドステップに足を載せて、そこからドライバーズシートに到達する。発色のいいレザーをふんだんに用いたインテリアは豪華絢爛だから、まるで秘密の階段を登り、特別な部屋に足を踏み入れたように感じたのだ。

エンジン始動ボタンをプッシュすると、AMGのクラフツマンが1機ずつ丁寧に組み立てた排気量4.0リッターのV型8気筒ターボユニットが、地鳴りのような音とともに目覚める。静かだった特別な部屋に、迫力満点の音が響く。まだ1mmも動いていないのに、ここまでの過程だけでかなりお腹がふくれる。

シフトセレクターをDレンジにシフトして、ブレーキペダルをリリースすると、始動時の轟音とは裏腹に、静かで滑らかな発進加速を見せた。2024年のマイナーチェンジで、Gクラスの内燃機関モデルにはISG（インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター）が備わるようになったからだ。

エンジンスターターとモーター、そして回生ブレーキによる発電という一人三役をこなすISGの最高出力は20psで、最大トルクは208Nm。

660cc直列3気筒ターボのスズキ「ジムニー」の最大トルクが96Nmだから、G63のISGはジムニー2台分以上のトルクで押し出す計算になる。

ISGはエンジンの負担を減らして燃費を向上させるための仕組みであるけれど、発進加速をスムーズにするほか、加速力向上にも貢献している。マイチェン前の0〜100km/h加速のタイムを0.1秒短縮して、4.4秒となっているのだ。ちなみにポルシェ「911カレラT」の0〜100km/h加速は4.5秒だから、ヨーイドンしたらこのゴツくて四角い、2.5t超の要塞のようなクルマが、100km/hまでなら前に出るということになる。

このパフォーマンスを試すころができるのは高速道路でもほんの一瞬ではあるけれど、アクセルペダルを踏み込むと澄んだ快音とともにタコメーターの針がハネ上がり、周囲の景色がコマ送りになる。圧倒的なクルマの質量と目線の高さがあいまって、速いというより異世界に飛び込んで行くんじゃないかと思える加速感だ。

特にメルセデスがAMGダイナミックセレクトと呼ぶドライブモードで「スポーツプラス」を選ぶと、音はさらにソリッドなものとなり、アクセル操作に対するレスポンスもカミソリの切れ味になる。

この大パワーを、最新テクノロジーで構成した足まわりドシッと受け止める。

路面状況や運転スタイルに応じて自在にセッティングを買えるアダプティブダンピングシステムに、可変スタビライザーのAMGアクティブライドコントロールサスペンションが組み合わされるようになり、たとえばコーナーからの脱出でアクセルオン、大出力の負荷を4輪に掛けても、とっちらかることなくコーナリングを完遂する。

だから気分よく、スポーティに走らせることができるけれど、おろしたてのリーバイス501のような、ラダーフレーム構造特有のゴワゴワ感は残っている。

その乗り心地は、「レンジローバー」やベントレー「ベンテイガ」のようなマジック・カーペット・ライドではない。

じゃあG63が不快なのか？ というとそんなことはなく、フロアの下に屈強な梯子型のフレームが存在していることや、4本のタイヤがガッチリと地面を掴んでいることを感じながら走らせていると、大きな安心感に包まれる。ボディも金庫のようにガッチリしているから、このまま異世界にワープして砂漠や雪山に放り出されても大丈夫だと思えるほど、頼れるヤツなのだ。

乗り込む瞬間からエンジン始動、そして加速からコーナリングに至るまで、このクルマは“良い、悪い”を超えた非日常を見せてくれる。コンビニに行くまでの過程すら冒険になる。しかもこの非日常的な冒険を、お金で買うことができる。

世界中で品薄になるほどメルセデス・ベンツGクラスが人気だというのは、実際に乗ってみると、よ〜くわかるのだった。