Published: 2025-01-15 20:11

ドナルド・トランプを演じたセバスチャン・スタンが語る、アメリカンドリームの光と影──映画『アプレンティス：ドナルド・トランプの創り方』

昨年、アメリカで最も論議を呼んだ問題作が、ついに日本で公開される。ドナルド・トランプの若き日を描く『アプレンティス：ドナルド・トランプの創り方』だ。

【写真を見る】トランプが公開を妨害しようとした作品『アプレンティス：ドナルド・トランプの創り方』をチェック

昨年5月、カンヌ国際映画祭で世界初上映されると、トランプの選挙キャンペーンのスポークスパーソンは、映画を観ていないにもかかわらず、「完全なるフィクション。ただのゴミ。トランプがホワイトハウスに返り咲くと知っているハリウッドのエリートが邪魔をしているに過ぎない」と大批判。それに対し、イラン生まれ、デンマーク在住のアリ・アッバシ監督は、「お望みならばトランプのために特別上映会をご用意します」と言うなど、泰然と構えていた。

アメリカの配給会社はトランプの報復、訴訟を恐れ、どこも手を出したがらず、これでは自主検閲ではないかと恐れられたものの、比較的新しいブライアークリフ・エンタテインメントが手を挙げ、無事、大統領選挙前に公開にこぎつける。だが、肝心の選挙では、トランプが勝利を収めることになってしまった。

■ドナルド・トランプとは一体どんな人物なのか

とは言え、これは決してトランプを批判する目的で作られた映画ではない。アッバシ監督によれば、伝記映画でもない。これは、若者だったトランプと、ロイ・コーンという恩師の関係を描くものだ。まだ無名だったトランプが、今我々の知る人物に変わっていく過程を見事に演じたセバスチャン・スタンに話を聞いた。

──大統領選挙でトランプが当選しました。そのことはこの映画にとって何を意味すると思いますか？

これまで以上に意味をもつものになったと思います。この人物がなぜある種の人たちにとって魅力的なのかを、僕たちは考えてみる必要があります。僕たちはそこを無視しがちでしたが、それではいけないのです。

これは、トランプを批判する映画でも、礼賛する映画でもありません。僕たちは、これまでないような形でこの人物にアプローチしたつもりです。彼を意地が悪く、最悪の人として描写するのは簡単。実際彼はそういう人物だし、僕自身も彼をそんな人だと捉えています。ですが、だからと言って、彼は奥に秘めたものが何もない単純な人物だということにはならない。この人にだって過去はあります。僕らはそこに立ち戻り、この人物を理解しなければならないのです。

実際、トランプはこの映画の公開を阻止しようとしました。（元政治ジャーナリストでこの映画の脚本家の）ガブリエル・シャーマンが綿密にリサーチした上で書いたこの映画を、彼はどうして恐れたのでしょう？　それにはちゃんと理由があるのです。

■物真似にならないために

──あなたは過去に、『アイ, トーニャ　史上最大のスキャンダル』や『パム＆トミー』で実在の人物を演じていますが、どのように役作りをするのでしょうか？

実在の有名人に関しては、映像や音声など、参考資料がたくさんあります。まずはそれらをひたすら見て聴きます。毎日、何時間もかけて。まるで新しい楽器を習うようなプロセスです。じっくりと、綿密にやらなければいけない作業です。頭で考えなくても自然にできるようになるくらいまで研究します。1万時間はかけないとそこに到達できないとも言われる作業です。

ですが、トランプの役に関しては、それとは別の特別な難しさもありました。彼があまりにも有名だからです。この役を受けることに対する躊躇があったとすれば、それでしたね。彼の物真似は、あまりにも多くの人がやってきています。彼のしゃべり方、身振り手振りは、誰もが知っています。派手にやり過ぎてしまうと、観客の注意は全部そこに向いてしまうと思ったのです。

──その問題にどう向き合ったのですか？

アリ・アッバシ監督と一緒に、この映画の中でのトランプの変化をしっかりと考えました。この映画の最初に登場するシーンにも、僕らが知る要素はたしかにありますが、違う部分もたくさんあります。たとえば、今のように人の目をまっすぐ見ないとか、身振り手振りがそれほど派手ではないとか。

彼は自分自身を見るのが好きなので、繰り返し自分を見るうちにどんどん動作が派手になっていき、今のようになったのだと僕は思っています。過去のインタビュー映像をさかのぼっても、それは明らか。時間が経つうちに自信が見えてきます。彼はどんどん変化していったのです。僕たちは観客に、ストーリーに没頭してほしかった。トランプに対しては、誰もがなんらかの先入観をもっています。それを捨て、この映画の主人公のジャーニーに同行してもらいたかったのです。

■アメリカンドリームの弊害

──あなたはルーマニアで生まれ、子供の頃にアメリカに移住しましたが、アッバシ監督によると、この映画を通してアメリカンドリームを違う角度から見てみたかったとおしゃったそうですね。

共産主義の東欧で育った頃、僕はアメリカンドリームにについての話題をよく耳にしました。僕自身もその恩恵に預かったわけですが、アメリカンドリームというものが人にどんな影響を与えるのか考えてみたいと思いました。この映画は、それについても描いています。本作は、ただドナルド・トランプについて描いたものではないのです。こういう人物が生まれるには、社会のシステムも影響していると思います。それも含め、この映画は今こそ、観てもらいたい映画なのです。

『アプレンティス：ドナルド・トランプの創り方』 1月17日(金)TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開 配給：キノフィルムズ

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取材と文・猿渡由紀 編集・遠藤加奈（GQ）