Published: 2023-06-20 12:20

コスメティックブランド・SHIROがオープンした「みんなの工場」は企業と市民の関係性を再定義する

社会を駆動し、イノベーションを生む装置として大きな役割を担ってきた「会社」。株主資本主義による格差や外部不経済の拡大、ガバナンスの失敗など、その歴史で多くの課題にも直面するなか、いま「会社」の役割や枠組みを問い直す動きが世界中で始まっている。

【画像ギャラリー】工場内部の詳しい様子

経済活動を通じて人々のつながり、社会、生態系、経済システムを再生しようとする次世代カンパニーを「THE REGENERATIVE COMPANY（リジェネラティブ・カンパニー）」と定義づけ、始まりつつある大きなムーブメントを捉えた『WIRED』日本版の総力特集から掲載。

ジャングルネットで遊ぶ子どもに時折目をやりながら、ベンチに座って話し込む大人たち。北海道の雄大な山々を臨むカフェでは老夫婦が薪窯で焼き上がったばかりのピッツァを頬張り、ラウンジでは若いカップルが雑誌を広げる。そのすぐ後ろには、ガラスを一枚隔てて作業をする工場のスタッフたちの姿。コスメティックブランド・SHIROの新しい工場は、工場らしからぬ姿をしている。

「みんなの工場」と名付けられたこの工場は、札幌と旭川の中間にある砂川市で2023年4月末にオープンした。旧工場から拠点を移すにあたり「誰もが集える場所をつくりたい」「SHIROが育った砂川の町に恩返しをしたい」というシロの今井浩恵会長の想いあってのことだ。移設計画は「みんなのすながわプロジェクト」というまちづくりプロジェクトとしてスタート。2年という期間で市民を交えたワークショップを幾度も開催し、文字通りみんなで工場の在り方を考えた。その様子はウェブサイトで公開されており、出てきたアイデアや議論の過程が伺える。

そこから生まれたのが、ひとつの建物にカフェやキッズスペース、ラウンジなど、市内外の老若男女の居場所となるエリアを備えた工場だ。「工場を開く」というコンセプトの通り、工場と付帯施設は一枚のガラスでつながれ、来場者はSHIROのものづくりの一部始終を見学できるようになっている。

「SHIROの旧工場を見学したとき、従業員の方々のチームプレイに惹かれました。傍から見ると、まるでスポーツをしているようだったんです」と、設計を手がけたアリイイリエ アーキテクツの有井淳生は話す。それは、SHIROのものづくりが自然に依拠しているからだ。

「SHIROの材料調達は、農業というよりは狩猟採集に近いんですよね。自然の回復力に頼っているんです」そう有井が話すように、SHIROは肥料をまいたり大きな機械で大規模な農業を行なうのではなく、自然にあるものをいただくという考え方を創業当時から守っている。原料が自然由来だからこそ、人の感覚やコミュニケーションが大切になるのだ。また、手作業だからこそ柔軟によいものを追い求められると今井は言う。