Published: 2025-04-08 20:11

チョン・ヘインの優しさと強さがぶつかり合う──映画『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』インタビュー

リュ・スンワン監督の映画『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』が公開される。法の網をかいくぐり罪に問われなかった悪人を次々と殺していく謎の人物が現れる。正義のヒーローともてはやされる人物を追うベテラン刑事をファン・ジョンミン、新人刑事をチョン・ヘインが演じた。ロマコメやスリラー、クライム・アクションなどさまざまな作品に出演してきたチョン・ヘインに本作にかける思いを尋ねた。

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2015年公開のヒット作『ベテラン』が、10年の時を経て『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』で復活する。「ベテラン」とは、韓国を代表する俳優のひとり、ファン・ジョンミン演じるベテラン熱血刑事、ソ・ドチョルのこと。頭の上がらない妻との関係、仲間たちとのチームワークなど、魅力的な要素が前作から引き継がれると同時に、今回、ドチョルのチームには新たな顔が加わった。新人刑事、パク・ソヌだ。演じるのは、『ソウルの春』（2023）での特別出演も記憶に新しい人気俳優、チョン・ヘイン。本作について、撮影現場で得たものについて、そしてこれまでとこれからのキャリアなどについて聞いた。

──大ヒット作の続篇ということで、プレッシャーはありましたか。

負担は感じました。しかし実際に撮影が始まってからは、撮影に集中するうちにその気持ちは消えました。

──『ソウルの春』では共演シーンがなかったファン・ジョンミンさんと、今回初めて本格的に共演されましたね。

ファン・ジョンミン先輩との撮影は、毎瞬間エネルギーがあふれていて楽しかったです。気楽に演技できるよう、先輩のほうから近づいてくださって、ほんとうにありがたかったです。アクション演技がとても上手で驚きました。最初の撮影のあと、一緒に食事しようと言ってくださって、さらに近づくことができました。

■アクションシーンと難役への挑戦

監督は前作『ベテラン』に続いてのリュ・スンワン。昨年日本公開された快作『密輸 1970』（2023）でも知られるとおり、アクション演出には定評がある。今回の作品も、『ジョン・ウィック：コンセクエンス』（2023）のクライマックスをある意味超えたかもしれない、長い階段をダイナミックに用いたシーン、雨の降る屋上で、ソヌやドチョルらが足を滑らせながら展開されるシーンなど、見ごたえのあるアクションシーンが満載だ。

──リュ・スンワン監督の作品への出演が決まったときはどんなお気持ちでしたか。現場はいかがでしたか。

リュ・スンワン監督の作品を観て育ったので、作品に合流するのは大きな幸運であり、光栄なことだと思いました。撮影現場はいつも情熱に満ちていました。アクションシーンが多かったのですが、常にリハーサルを充分に行ない、安全点検にも細かく気を遣ってくださって、安心して演技することができました。監督は、俳優が持っている長所を上手く引き出してくださる方です。大変感謝しています。

──チョン・ヘインさんが演じるパク・ソヌは、映画が進むにつれ、ドチョルと出会ったときの印象とは違う面をだんだんと見せていきます。難しい役だったのではないかと思いますが。

平面的な人物ではないため、理解して分析するのは容易ではありませんでした。演技しているあいだも、複雑で表現が難しい部分が多かったのですが、撮影に入る前から監督と意見をたくさん交わしたことで、次第に鮮明になりはじめました。

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今回ドチョルのチームが追うのは連続殺人犯。法で裁かれなかった悪人を次々と処刑するこの人物を、世間は「ヘチ」〔善悪を裁く伝説上の生き物の名〕と呼び、ヒーローとしてもてはやすようになる。ネット世論は時に暴力となり、捜査の過程でドチョルは、自身の暴力性をも自問するようになっていく。

──あるシーンでドチョルは「いい殺人と悪い殺人があるのか」と言います。この映画はまさに「善い暴力など存在するのか」と問いかけているように思いました。この問題についてチョン・ヘインさんは、撮影を進めるなかでどのようにお考えになりましたか。

自分の正義を確信し、その正義にとらわれた結果、もしかしたら罪などなかったかもしれない人に対して暴力をふるってしまう可能性について、撮影中もえんえんと考え、悩むことが多かったです。信じる正義は人それぞれ違うとは思いますが、暴力は決して正当化されてはならないと思います。

■これまでとこれから

チョン・ヘインの俳優デビューは意外にも遅く、兵役を終えてからの2014年、26歳のときのこと。助演者として出演したTVシリーズ『あなたが眠っている間に』（2017）で一躍人気を集め、TVシリーズ『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』（2018）で初主演。以来順調に役柄の幅を広げてきた。

──出演作を選ぶ際の基準のようなものはありますか。

いちばん大事なのは台本だと思います。物語が持っている力と伝えようとするテーマ。大衆芸術ですから、人々が共感し、物語を受け入れられるかどうかも重要だと考えます。また、作品をともにする製作陣と俳優陣も重要な要素だと思います。

──いままでのご自分のキャリアのなかで、特に転機だったと思える作品はありますか。

Netflixシリーズ『D.P. ―脱走兵追跡官―』シーズン1（2021）、シーズン2（2023）だと思います。チョン・ヘインという俳優が持っているエネルギーが、より多様に使えることを示した作品だと感じるからです。機会をくださったハン・ジュニ監督に感謝したいです。

──これから挑戦してみたい役はありますか。また、今後どのような俳優になりたいとお考えですか。

経験したことのない役柄なら、どんなものでも挑戦してみたいです。これからも人に感謝できる俳優でありたいと思いますし、人々に楽しさを与える俳優になりたいです。

──最後に、日本の観客のみなさんへのメッセージをお願いします。

映画『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』は、連続殺人事件を追う刑事たちの物語ですが、社会現象について語る面もあり、ここを重点的に見てほしいです。映画をご覧になったあと、観客のみなさんそれぞれの考える正義について、もう一度考えてもらえたらと思います。そして、僕の新しい姿にも、たくさん期待していただけたらうれしいです。

——『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』——

4月11日（金）新宿ピカデリーほか全国ロードショー 配給：KADOKAWA Kプラス ©2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED レイティング：G

著者プロフィール：篠儀直子（しのぎ なおこ）

翻訳者。映画批評も手がける。翻訳書は『フレッド・アステア自伝』『エドワード・ヤン』（以上青土社）『ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』（DU BOOKS）『SF映画のタイポグラフィとデザイン』（フィルムアート社）『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』（青土社）など。

編集・遠藤加奈（GQ）