Published: 2025-03-10 19:03

KHOKIの魔法に魅せられた、怖くて楽しい夜の森【2025-2026年秋冬コレクション】

顔出しせず、かつ「チーム全員がデザイナー」という謎めくブランド、KHOKI（コッキ）。LVMHプライズ2024でセミファイナリストに選出され、2月12日（水）に開催されたショーでは落ち葉に包まれたランウェイでゲストをあっと驚かせた。パリや中国をはじめ、グローバルでも注目を集めるブランドのクリエーションについて、ディレクターのKokiが11の質問に答えてくれた。

【写真の記事を読む】グローバルでも注目を集めるブランドのクリエーションについて、ディレクターのKokiが11の質問に答えてくれた。

──まず、ブランドをスタートしたきっかけから教えてください。

ショーをやろうと思い立ったのが昨年9月。やるからには、普通に服を着たモデルが歩いて、その着こなしがかっこいいよね、というだけじゃなく、ショーに来たお客さんに何かしらの感情を沸き起こしたいと思いました。そこで思い浮かんだのが、「怖い」という感情です。僕は山梨の清里という田舎で育ったのですが、子どもの頃に見ていた夜の森が、自分にとっては一番のトラウマで。今も鮮明に残るその時の不安や恐怖を、故郷の原風景とともに表現しようと思ったのが始まりでした。

ただ、久しぶりに地元に帰って、ショー演出のために落ち葉を拾ったりしていく中で、森の風景は怖いというよりやっぱり美しいな、自分が本質的に魅力を感じる原点だなと再認識しました。だからショーの終盤は、自然を称賛するような音楽も使って、怖いというムードにはしなかった。最終的には、森の中ってすごい楽しいよね、という終わり方に持っていきました。

── とにかく圧倒されたのが、こんもりと敷き詰められた落ち葉です。そして座席の代わりに置かれた「K」のロゴ入りクッション。準備はどのように進めましたか？

落ち葉はダンボール600箱分あって、当日2tトラック4台で運び込みました。昨年10月の秋口に地元の方々にも手伝っていただき、1カ月ぐらいで拾い集めましたね。色味がすごく大事だと思ったので、紅葉が一番きれいな時期を狙って。ドライフラワーの会社を営む実家の倉庫で乾燥させて、適切な温度と湿度で当日まで管理していました。

落ち葉の色味をランク付けをして保管していたので、イマイチなものは下に敷いて、一番いい色味のものを上に持ってきたりして。自分が美しいと思っていた森の原風景を絶対に表現したかったので、並々ならぬこだわりがありましたね（笑）。落ち葉の上のクッションは320個あって、自分の母校の学生さんたちが協力して作るのを手伝ってくれました。ゲストには持って帰っていいよと伝えていたのですが、半分くらい残るんじゃないかと心配してました。結果、お客さんがみんなうれしそうに持って帰ってくれたのでよかったです。

── 初めて行った2023年のショーと比べて、意識した点は？

1回目のコレクションはショーピースに振り切ったシーズンで、展示会の商品は一着もないぐらいだったんです。でも今回は、展示会にあるコッキのリアル（＝カジュアル）なプロダクトを見せることに注力しました。ただそれには葛藤もあって。前回のショーで楽しんでくれたお客さんが、今回リアルクローズになって満足してくれるか。それがひとつのテーマであり、ミッションでもありました。赤いフーディと、レースショーツをレイヤードしたデニムのルックは、今季らしいリアルなコーディネートでありながら、ランウェイでも新鮮に見えるルックの代表例だったと思います。

──ファーストルックのシャツには古城のアップリケ、ヴィンテージ加工のパファージャケットにはキツネや乗馬モチーフのクロスステッチなど、全体を通して少しファンタジックでヨーロピアンなムードが感じられましたが、「夜の森」との関連性は？

それらはある種、偶発的に生まれたものです。清里の森から着想して落ち葉を取り入れたのですが、だからといって日本的なものを表現したいわけではなかった。プロダクトが結構カジュアルなので、それをショーとして面白いものにしようと考えたときに、ヨーロッパ的な要素を入れるという発想が生まれました。落ち葉の山道を歩いていて、開けたらお城が見えてくる、という具合に。ヨーロッパの寒い地方の森の中みたいなイメージでしたね。

──一般的にはウィメンズで重宝されるレースやパールを多用していたのも印象的でした。それらの着想源もヨーロッパからですか？

レースはむしろ、プロダクト起点の初期アイデアからです。レースをメンズのリアルな服に自然な形で落とし込みたいというメンバーひとりの熱意に始まり、それをショーにも派生させようということでヘッドピースやグローブが生まれました。展示会のリアルなプロダクトと、ショーで表現したい森のムードを繋ぐ重要なピースになったのがレースですね。パールは逆に、プロダクトとショーの世界観をどう合わせるか模索していく中で後発的に思いついたもの。結果、全体に少しロマンチズムというか、甘さを足す役割を果たしてくれました。

──ブランド名のKHOKIは、ディレクターKokiさんの名前から？

そうですね。ブランド名にHが入ってるのは、ちょっと「ホ」っていう音を入れたらいいかな、「コッキ」って音がかわいいなと思って。本当にそれくらいの理由です。

──デザイナーの名前を前に出さず、匿名にすることのメリットとデメリットは?

僕としては、チーム6人全員がデザイナーだと思っていて。インタビューを受けるときなどは、僕がこうして説明するのですが、コッキはあくまでもデザインチーム。パターンや生産管理など、お客さんに商品が届くまでの全てがデザインの一環なので、特に誰かの名前を出す必要がないと思っていて。ものづくりをしていく上で、重くないというか、誰かひとりがすごい責任を感じる必要がない。その分、健全な気持ちでものづくりができるというのがメリットですね。デメリットは…考えたらきっといろいろあるんでしょうけど、今は特に思いつきません。

──具体的なクリエーションのプロセスはどのようになっているのでしょうか。

ディレクターである僕がまず全体のアウトラインを引きます。今回でいうとショーのアイテム構成。ジャケット何品番、シャツ何品番など、そういうアパレルらしいルールや、ある程度のキーワード、大まかなイメージ、色使いは僕が方向性を示すのですが、あとはメンバー各人が得意とする分野ややりたいものをやる。僕なら例えば刺繍やグラフィック、柄作りです。パタンナーはヴィンテージ加工やレザーのプロダクト。生産管理は今回レースをやりたいということでそのデザインを。各人が本来の仕事は分業で進めつつ、その合間に自分の担当のプロダクトをデザイナーのようにスケッチして作っていく流れです。

──今回はインターン生が手がけたルックもあると伺いましたが、どのルックでしょうか。

落ち葉のニットですね。彼女はベルリンの芸大生で、 コッキでインターンをするために6カ月日本に滞在しています。今回はベースに森の風景というのがあったので、有機的というか、クラフト感を押し出したピースが欲しくて彼女の力を借りました。落ち葉のカラーパレットに心血を注いでいたので、染めるのはすごく大変でしたね…。学生がコレクションの場で大事なルックを任されるというのはかなりの重責だったと思うのですが、その分成長できたのではないかなと思います。

──ラグジュアリーブランドのデザイナー交代劇や、若手が次々に台頭する現在のファッションシーンについて、どのように感じていますか？

今回はショーという発表形式をとりましたが、こういうランウェイに憧れる若者は確実に減ってると思うんですよね。自分の学生時代は、それこそジョン・ガリアーノとか、そういった世代のデザイナーに憧れている子がいっぱいいたんですが。コッキは国内で頑張ってショーもして、パリでは展示会をやって…と、先輩世代が作ったある種王道のルートを選んでいますが、それはもう最後の世代なんじゃないかと。

一着入魂のものづくりというより、今はSNSだったり、もっと広い意味でのファッションを得意とするデザイナーがすごく増えている印象なので。でも、僕らみたいな“土臭い“ものづくりをしているのが絶滅危惧種だとしたら、それは逆にブルーオーシャンにもなり得るなと。自分たちのアナログなものづくりを全力でやり続けたら、それがビジネス的にも成立すると信じています。

──ショーを終えてみて、今度はまた2年後の開催になりそうでしょうか。

ひとまず、お客さんがみんな喜んでくれて、バイヤーさんの反応も上々なので、やってよかったなと思っています。今は取引先も増えて売り上げ規模も大きくなり、海外にも本格的に進出しているフェーズなので、きちんとセールスに繋がるようなショーをすべきだなと思っていました。そういった意味でも、今回はリアルなプロダクトをしっかりと見せることで貢献できたと思っています。だからまたやりたいとは思うのですが、タイミングについてはチームみんなのムード次第ですね。

KHOKI ラグジュアリーブランドで経験を積んだメンバーで2019年に創設。「人の手が見えるモノづくり」をコンセプトに掲げ、キルトやカンタ、スザニなど伝統的手法を取り入れたメンズウェアを展開する。東京ファッションアワード2023を受賞後、楽天ファッションウィーク東京に参加。LVMH ヤング ファッション デザイナー プライズ2024では、日本人唯一となるセミファイナル進出を果たし、2024-25年秋冬パリ・ファッション・ウイークでプレゼンテーションを行った。オンラインストアEYEでは、オリジナル商品だけでなく、個々の私物も販売している。