Published: 2025-06-22 21:40

ナイキに教わるハーフマラソンの走り方──実践編

ランニング熱が再び盛り上がっている。"走る"という最も敷居が低いスポーツはどう楽しめばいいのか。ハーフマラソンへの挑戦をひとつの目標としてブレイクダウンする。ハーフマラソン未経験者が2カ月の練習期間を経て「軽井沢ハーフマラソン 2025」を走った。

【写真を見る】ボメロ18からアルファフライ3まで試したシューズをチェック

ランニング初心者である自分が限られた期間でハーフマラソン完走を目標にするのが本企画の主旨だ。基礎編ではナイキのランニングコーチである森実利コーチのアドバイスをまとめた。以下、目標別のチャートをあらためて図で記載する。

実際に1週間ほど試しに走り、自分は以下に調整し、本番までの目標とした。

・目標はハーフマラソン完走 ・練習頻度は週2〜3回 ・初月は1回のトレーニングにつき1km6分〜7分のペースで7〜8km ・次月は1回のトレーニングにつき1km6分〜7分のペースで10km

トレーニングのメインシューズはクッショニングに優れたナイキ ボメロ18を選んだ。走り慣れていない脚をサポートするのに頼りがいのあるクッショニングが一番のポイントだった。聞けばシリーズ最厚のソールで、かかと部分は46mmもある。それなのに着地時のグラつきがない。つまり安心感がある。レース出場が決まった3月はまだ肌寒く、ランニングパンツとロングスリーブTシャツ、そしてランニングジャケットの組み合わせがウェアの主軸となる。洗濯のローテーションを考慮し、2セット用意し、またレース当日に向けてランニングTシャツとランニングショーツをそれぞれ1枚ずつ用意。実際に使ってみてどちらにするか検討することにした。最新のランニングウェアは想像以上に機能が専用に特化していた。軽さ、撥水性の高さは言うに及ばず。とりわけ良いと感じたのがナイキのランニングジャケットだ。前身頃の開閉部中央にプラボタンのタブがあり、閉じれていればジッパーを下げてベンチレーションを確保しても服がバタつかない。またドローコードで調整できるフードもきちんと頭にフィットし、走ってもズレにくい。自分の知識の低さを恥じるほど、正常進化していた。

レース用シューズはトレーニングがきちんと消化できた場合はナイキ アルファフライ 3を、あまり取り組めなかった場合はナイキ ボメロ 18で走ることにした。理由は、前者はソールにカーボンプレートを使用しており、脚がそれなりにできあがっていればそのポテンシャルについて実感できるのでは、といった期待からだ。

実際、練習に取り組むようになってもっとも難しかったのが練習時間の確保である。平日の場合、おそらく多くのランナーが朝を選ぶだろうが、自分の場合は朝食の支度があるためタスクをこれ以上増やせない。帰宅時間も遅く、結果的に23〜00時がトレーニングのコアタイムとなる。よって距離走といった1時間30分以上のジョグなどはほぼ取り組めなかった。森コーチによると「ハーフマラソン完走ならばその強度でいい」だそう。ハードなトレーニングは、走ることが習慣化した次の機会にとっておく。

■レース本番

「軽井沢ハーフマラソン 2025」は、参加人数が約5500人に及ぶ人気レースだ。「軽井沢プリンスホテルスキー場駐車場」がスタート・フィニッシュ地点となり、軽井沢本通から離山通りを抜け、軽井沢ゴルフ倶楽部脇を通り、中軽井沢で折り返す。スタートブロックは7つに分けられ、私はGブロックから走ることになった。腕につけたApple Watch ULTRA2を操作し、「Nike Run Club」のアプリを起動。距離を設定し、スタートの号令を待つ。合図が鳴った、しかし最初は走り出すというよりは、ブロック全体が歩くように動き出した。道幅のせいか、なかなか目の前から人が減らない。目の前だけではない。横にも後ろにもいる。しかしナイキ アルファフライ 3は軽く、もっと前に進めとそそのかす。

Apple Watch ULTRA2が1km通過したことを告げた。しかし周囲は参加者だらけで、速度をあげようにもあげられない。画面は5.4分/kmを記録していた。相手のスピードを観察しながら折を見て抜かす。路肩からごぼう抜きする選手も見かけたが、路肩が空いているチャンスに恵まれない。ペースを保ちながら7kmほど走った。足取りはまだコントロール下にある。

南が丘通りの途中からようやく人がまばらになる。前方視界がクリアになり、やや速度をあげるが10km手前から長い上り坂が続くようになる。練習で長い坂をくだったり登ったりしたことがなかったことを悔やむ。じりじりと脚全体に疲労が積もるのがわかる。フライプレートは反発しているのだろうか。だんだんわからなくなってきた。だが、ペースはまだ変わらない。

コース終盤にさしかかる未舗装路を超えたあたり、つまり約17km地点から両方の足首が固くなる。感覚でいうと足首の関節が減ったイメージだ。着地して蹴って、という動作がぎこちない。距離走が足りなかったのか、練習回数が少なかったのか、などと考えがよぎる。次第にペースが崩れはじめ、心肺の苦しさよりも脚の痛みが意識を支配する。そこから20kmまではこれまでの練習で走ってきたことを含めても、一番長い時間だったと感じた。ペースは6分台/kmまで落ちた。これほどゆっくりなら最後の給水所に寄れるかもしれない。一杯、水を口に含めばまた脚が戻るかもしれない、と思ったが砂上の楼閣のように脆い考えであった。最後の給水所も人だかりで、入り込む余地がない。正確に言うと、よしんば余地があったとしても脚が前に走ること以外の言うことを聞かないから入り込めない。最後の1kmは走るというよりはカカトらへんで地面を踏みつけて前に進んでいた。

レースが終わり、ストレッチをしながらあの地点で脚がもっと続けば、などとレースを回想する。はじめてのハーフマラソンは無事に完走できた。しかしその直後から「あの時ああすれば」「このときに」といった考えが逡巡する。そして気づく。おそらくこうして多くのランナーが走ることを辞めなくなるのだろう。タイムはネットで2:03:04だった。これがよくやったのか、いまいちだったかわからない。ただ自分はまだほんの入口にいるのかもしれないけど、皆が走り続ける意味を少しは理解できた気がする。