Published: 2025-04-04 18:28

育児 “支える側”の支援 広がり始める

新年度が始まり、働きながら育児をする人の支援が手厚くなりました。

男女ともに子育て期の柔軟な働き方を実現するため制度が見直され、さまざな仕組みが導入されましたが、育児をする人を“支える側”も支援しようという動きが広がり始めています。

まずは、育児・介護休業法の改正による主な変更です。 【子の看護休暇の見直し】
これまで取得の目的は子の病気やけがの看病、予防接種や健康診断に限られていました。

今月からは入園式や卒園式、入学式への出席、感染症に伴う学級閉鎖などでも取得できるようになりました。

対象となる子どもも「小学校入学前」から「小学3年生修了」までに広がりました。 【残業免除の対象拡大】
働く人が勤務先に対して残業の免除を請求できる期間が延長。
育てる子どもの年齢が「3歳未満」から「小学校入学前」までになりました。 【テレワークの活用】
3歳未満の子どもを育てる人がテレワークを選んで働けるようにすることが企業の努力義務になりました。 【男性の育休取得状況の公表】
男性の育休の取得を推進するため、企業には取得状況の公表を義務づけていますがその対象が拡大しました。

従業員「1000人超」の企業が対象でしたが、それが「300人超」の企業になりました。 法律の改正とは別に国の2つの給付金制度も新たに始まりました。

【出生後休業支援給付金】
この給付金は共働きしながら一緒に子育てをする親を支援するため創設されました。

夫婦がどちらとも14日以上の育児休業を取得した場合、最長28日間、2人とも手取りの収入が実質的に減らないようになりました。

従来からの「育児休業給付金」などに上乗せされます。

配偶者がいない人や、配偶者がフリーランスで働き雇用保険に加入していない人については、本人が14日以上の育休を取れば支給されます。

【育児時短就業給付金】
もう1つの給付金は、育児中の人が時短勤務を選択しやすくすることを目的に創設されました。

2歳未満の子どもを育てるため、時短勤務をする人のうち一定の要件を満たした場合、賃金の10％相当の給付金が支給されます。 男女ともに仕事と育児の両立を目指そうと、さまざまな支援策が始まりましたが、これまでの状況はどうだったのでしょうか。 【育休の取得状況は】

厚生労働省は「雇用均等基本調査」で2023年10月、全国の6300の事業所を対象に調査し回答があった3495か所について結果を分析しました。

それによりますと育休の取得率は▽男性が30.1％、▽女性が84.1％でした。

これは前の年に比べて▽男性は13ポイント、▽女性は3.9ポイントの上昇です。この調査で、男性が初めて3割を超え過去最高となりました。

育休の取得期間については、▽女性は「6か月以上」が9割を超えましたが、▽男性は「1か月から3か月未満」が28.0％、「5日から2週間未満」が22.0％、「2週間から1か月未満」が20.4％、「5日未満」が15.7％などとなりました。

厚生労働省の分析によりますと過去の調査と比べると「2週間以上」取得する人が増えているとしています。 【育休を利用しない理由は?】

厚生労働省は外部に委託して、2022年度にアンケートを行いました。

インターネットモニターによる調査で、小学4年生未満の子の育児をしながら働く正社員の男女それぞれ1000人のうち、育休を取得しなかった人にその理由を複数回答で尋ねています。

複数の子どもがいる場合は「末っ子」の状況について聞きました。

取得しなかった正社員の男性は626人で最も多かったのが
▽「収入を減らしたくなかった」が39.9％でした。

次いで、
▽「職場が取得しづらい雰囲気だった。会社や上司、職場の理解がなかった」が22.5％、
▽「自分にしかできない仕事や担当している仕事があった」が22.0％などとなりました。

また、正社員の女性は47人が育休を取得しておらず、その理由として最も多かったのは
▽「収入を減らしたくなかった」が34.0％で、
▽「自分にしかできない仕事や担当している仕事があった」が25.5％、
▽「会社で育児休業制度が整備されていなかった」が19.1％でした。

一方、同じ調査で企業側を対象に仕事と育児の両立支援を進める上での障壁や課題を尋ねています。

ここでは対象の5000社のうち回答があった926社をもとに、企業規模が全国的な分布と一致するよう調整して分析しています。

それによりますと、
▽「代替要員の確保が難しく、管理職や周囲の従業員の業務量が増えた」が46.7％で最多でした。

次いで
▽「子育て中の従業員とそうでない従業員との間で不公平感がある」が26.9％、
▽「両立支援制度の導入や代替要員確保にコストがかかる」が17.4％でした。

また、
▽「特に障壁・課題だと思っていることはない」という回答も19.3％ありました。 仕事と育児の両立に向けたさまざまな支援策を前向きに捉える一方で、職場の同僚たちに負担をかけないか心配する人もいます。 子どものいる社員が、同僚に気兼ねなく育休や時短勤務を選択してもらおうと対策を始める企業が出ています。 都内の30代の女性は、夫と共働きをしながら、2026年春、小学校に入学する5歳の息子と、生後9か月の娘を育てています。

今回の制度の改正について女性は「子どもが小さいので、しばらくは時短勤務になると思いますが、給付金がいただけるのは家族にも余裕が出るのでありがたいです。インフルエンザが流行しているときはベビーシッターの予約ができないことがあると思うので看護休暇を使いたいです」と話しています。 勤務する会社は従業員がおよそ170人で、別の企業から委託を受けて総務や広報の業務を代行しています。

女性は10人ほどのメンバーと取引先の勤務管理のチェックや備品の補充などの業務を中心に担当してきました。

第二子を出産した後、およそ8か月間の育休を取得していて、4月下旬に復帰する予定です。

午前9時から午後4時の時短勤務をするため、勤務時間外に発生するトラブル対応や取引先からの要望による急ぎの資料作成といった仕事をほかのメンバーに任せざるを得ない状況があるので、迷惑をかけるのではと心配しています。

女性は「フルタイムで仕事ができない分心苦しく感じる部分もあります。サポートいただいている方にも何かメリットがあるといい」と話します。

そのうえで、「私は育児が理由ですが、それ以外でも介護や勉強したいことがあるなど、働く時間を短くしたいというのはどの人にもあるのではないかと思います。働き方を柔軟に選べるような社会になればもっとよくなると思います」と話していました。 フォローする人を人事で評価 東京ガスは2018年から、育児をする社員向けにセミナーや座談会をたびたび開いてきました。 座談会のときの様子 このなかで、「育休などで職場を離れるとその間、同僚に迷惑をかけてしまう」という不安の声があがり、2023年、一部のグループ会社も含め人事評価の制度を見直しました。

育休や時短勤務の社員の業務をフォローした社員について、その貢献度を昇進やボーナスの査定に加えるようにしました。

不公平感をなくしていこうというのがねらいです。

また、育休を取った人についても、期間が1か月以上の場合はボーナスの一部を補填し、貢献度に応じて取得しない人と同じように昇進できるよう制度も設けました。 こうした結果、東京ガスではグループ会社を除いたまとめで、男性の育休の取得率が2019年度の5％から2024年度は、去年12月末時点で100％に。

また、取得した平均日数も2022年度のおよそ20日から、昨年度はおよそ60日に伸びたということです。

グループ会社の男性社員は、去年、2か月半の育休を取得しました。

男性は「もし今回の制度がなかったら、業務のしわ寄せがいかないかとか、『申し訳ない』と感じるところもありましたが、フォローしてくれた同僚も評価されることで、そういう後めたさが軽減されたと思います」と話します。

一方、この男性の仕事を代わりに担当した女性の社員は「グループの中でフォローしあうのは、当たり前だとは思いますが、人間ですので評価されないと少しさみしいなという気持ちもあります。会社としてフォローした人が評価される仕組みを制度化してもらることで、やりがいにつながりますし、会社の風通しの良い雰囲気が醸成されたと思います」と答えました。 東京ガス 五嶋希人事部長

「ポジティブに考えれば新しい仕事を経験できるという面もありますが、さらに業務が増えるというネガティブな感情もあると思います。だからこそ、会社としてしっかりとその部分に目を向けて評価をする、そしてそれを打ち出すということが非常に重要だと思っている」 フォローする人に手当を 生命保険大手の第一生命ホールディングスでは、2024年度、男性の育休取得率は100％となりましたが、育休を取得した人から「もっと長く取りたかった」、「周囲の人に申し訳なく思った」という声があがっていました。

そこで、育休や産休、介護休業を3か月以上取得した人がいた場合、その人の仕事を代わりに担う社員にことし10月から新たな手当を支給する予定です。 手当は、所属するチームに最大で95万円が配分され、業務負荷の大きさに応じて所属長が一人ひとりの配分を決めるということです。 育休を去年取得した男性

「心理的なハードルが下がってより取得しやすくなると思いますし、周りのメンバーも納得感のいく制度になるのかなと思っています」 入社8年目の女性

「まだ育休などを取ったことはありませんが、今後もしそういう状況になったとききっと取りやすくなるなと感じました。会社側がこういった制度を通して必要な時に休みを取得できる雰囲気をつくっていくのはとても大事だと思います」 人事企画グループ 櫻井涼輔アシスタントマネージャー

「業務を代わりに行った人に手当てを支払うことで気兼ねなく休みに入りやすいような環境を、周囲にとっては心よく送り出せるような環境を作っていきたい。最近の新入社員の傾向としてライフイベントと仕事の両立を重視している人が増えているので、会社のブランドイメージにつながればうれしい」 先ほどの厚生労働省が去年実施した「雇用均等基本調査」では、男性の育休取得率を企業の規模別に調べています。

全体の従業員が▽「500人以上」は34.2％でしたが、▽「100人から499人」は31.1％、▽「30人から99人」は31.4％▽「5人から29人」は26.2％で、規模が小さくなると取得率が低くなる傾向がありました。

こうしたなか、中小企業を対象に育休を取った人や時短勤務をする人の仕事をフォローする体制の整備に向けた厚生労働省の助成金が2024年1月に始まっています。

この「両立支援等助成金」は、中小企業で業務をフォローする周囲の人たちに手当を支給する場合、その手当の4分の3までを助成します。

具体的には要件を満たせば▽育休を取得した人をフォローした場合、月10万円を上限に最大12か月間、▽時短勤務のフォローでは月3万円を上限に対象の子どもが3歳になるまでとなっています。

また、▽育休中の人の仕事を代わりに行う人を新たに雇った場合は最大で67万5000円を助成するということです。 専門家は 男女ともに仕事と育児の両立を進めていこうとこの春に始まったさまざまな制度。

労働経済に詳しい拓殖大学政経学部の佐藤一磨教授は子どもを育てる人への支援に加えて、そうした人たちの仕事をフォローする人もお金や考課で具体的に評価する必要があると指摘します。 Q.回の制度の拡充をどう受け止める？

これまでは女性が主に育休を取ってきたが、今度は男性もどんどん取ってほしいという時に、収入が減るという部分が大きな懸念材料になってくる。

また、子どもが小さいうちは時短で働く女性が多いという現状があるので、時短で収入が減るという懸念がある。

その不安を抑えるという意味ではいい改正だと思う。 Q.これで両立は進む？

少子化によって徐々に子どものいる世帯が減っていて、仕事と育児の両方をやっていこうという人たちへの理解がなかなか進まない環境がある。

人手不足のなかで企業は子どものいない人に仕事をお願いせざるを得ないし、その結果として、子どものいない人を中心に仕事の内容や量に不公平感が出てしまって不満が出やすい。

今の日本には子どものいる人といない人の間に分断を生んでしまっている部分があるのではないか。 Q.なぜ分断が生じる？

少子化や未婚化が進んで子どもがいることの負担がなかなかわかり合えないということがあると思う。

これが育休制度を使うことへの1つの障害になっていると十分に考えられる。

「お互い様」というのが通らなくなってきているのではないかと思う。 Q.企業に求められるものは

育休を取る人が出てきても余力ある人員構成を確保すること。

少ない人でも業務ができるよう省力化を進めること。

育休などで一時的に仕事を離れた人の業務を代替してくれた社員の人事評価等をプラスしてみるということがあげられる。

これは、ことばだけでなく、金銭面や考課面で具体的なものがないと持続できない。

こういう取り組みをする企業であれば労働者からも魅力的に見えるので人を集める上でもひとつの方法になるのでは。