Published: 2025-03-12 08:10

【GQ読書案内】世界睡眠デーに読みたい──睡眠にまつわる5冊

編集者で、書店の選書担当としても活動する贄川雪さんが、月に一度、GQ読者におすすめの本を紹介。今月は睡眠がテーマ。

【写真を見る】睡眠にまつわる5冊をチェック！

3月14日は、世界睡眠医学協会（World Association of Sleep Medicine）が制定した「世界睡眠デー」。昨今、高機能な寝具や快眠グッズが続々と登場したり、良質な睡眠を目的とした「スリープツーリズム」が話題になったりするなど、睡眠という行為の価値や重要性に、あらためて注目が集まっている。今回は睡眠をテーマに、おすすめの5冊を紹介する。

金谷啓之『睡眠の起源』（講談社）

「生き物はなぜ眠るのか」。そう尋ねられたら、多くの人が「脳を休めるため？」と答えるだろう。実際に、長年そのように考えられてきたはず。しかし、どうやらそうでもないらしい！　のだ。

この睡眠科学の常識を覆したのが、金谷啓之さんだ。金谷さんは、脳を持たないヒドラという生き物にも、他の動物と共通する睡眠メカニズムが存在することを発見し、世界中を驚かせた。「人類は睡眠について何を考えてきたのか」「眠らない生き物は存在するのか」「私たちはなぜ眠らなければいけないのか」……。本書は、睡眠という現象の根本に、気鋭の生物学研究者が迫る、科学エッセイである。とにかく、最初から最後まで驚きの連続だ。例えば、吸引麻酔薬はなぜ100パーセント効くのか、それが未だにわかっていないまま使用され続けているということさえ、初めて知った。

脳を持たずに生きるという進化を遂げたヒドラさえ、眠りを必要とする。睡眠のしくみを考えることとは、同時に対極的である「覚醒」＝起きている時間を考えることでもあり、それは生物の進化を知るヒントにもなり得るのだ。この先、さらにどんな発見があるのだろうか。読んでいて、とても知的好奇心を刺激される一冊だった（ということは、寝る前には読まないほうが良いのかもしれない）。

西多昌規『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』（草思社）

「ノンレム睡眠中に成長ホルモンが分泌される」「睡眠不足だと免疫機能が落ちる」など、睡眠が成長や健康や美容にも、あるいは記憶力や思考力、運動能力といったパフォーマンスにも大きく影響するということが、近年の研究によってどんどん明らかになっている。しかしそれでも、依然として日本人の睡眠不足は深刻で、1日の平均睡眠時間は世界的に見ても非常に短いという。

『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』は、精神科医であり、日本の睡眠研究の第一人者である西多昌規さんによるもの。脳をはじめ、心臓や肺、胃腸、骨や筋肉、免疫、内分泌、泌尿器、皮膚など、人体のそれぞれの部位が、睡眠によってどのような影響を受けるのか。これまで、体温やホルモン、脳の状態など、睡眠中に特徴が見られるものに言及した本はたくさんあったが、意外にも「眠っている間の体の動きや変化を、臓器別に解説した本」はなかったという。それが一冊に網羅されている。とても便利でありがたい本なのだ。

今もまだ、睡眠に対して、怠惰だとかネガティブなイメージを抱かれることがある。あるいは、タイムパフォーマンスを重視するためか、ショートスリーパーへの誤った憧れを聞くことがある。睡眠の効能をきちんと知り実践することのほうが、ただ起きていることよりもどれだけ効率的か。本書は、冷静に知識をアップデートしてくれる。