Published: 2025-06-24 20:46

変わる中学校の部活動 “地域展開” 課題克服のカギは【解説】

今、中学校の部活動が大きく変わろうとしている。少子化や教員の働き方改革を受けて、地域のスポーツクラブなどが部活動を担う『地域展開』が全国で進められている。

国の有識者会議は5月、今後の方向性について提言をまとめ、来年度・令和8年度からの6年間で、『地域展開』の取り組みを、休日は原則すべてで実現、平日でもさらなる改革を進めていくことを目指すとした。ただ、人口の減少が進み、公共交通機関も限られる地方で取り組むうえで大きな課題となるのが「生徒の移動手段」と「指導者の確保」だ。

現場ではどう解決しようとしているのか、最前線を取材した。
（スポーツニュース部 記者 足立隆門）

子どもたちに多様な機会を 本州最北端、下北半島にある人口およそ5万人の青森県むつ市。 今年度から9つのすべての中学校で部活動を平日、休日ともに地域クラブに移行した。

その名も「むつ☆かつ」だ。 「野球」や「サッカー」といったスポーツ系のクラブだけではなく、「吹奏楽」や「IT」などの文化クラブ、さらにはK-POP人気を受けた「ダンス」、アウトドアのスキルを学ぶ「野外活動体験」など、生徒たちの希望も聞き入れ、23ものクラブが設置されている。 参加している生徒はおよそ600人。

吹奏楽は複数の学校の生徒が集まることで50人で活動できるようになった。 指導者は主に地域住民が務め、それぞれの経験を生かして熱心に教えている。 吹奏楽部の生徒
「部活の時と違って人数も増えたし、他校の人とも関わりが増えたから超楽しい。人数が増えて大会に向けて目標の幅が広くなったので、部活の時よりも目標に向かって練習できる」 ボードゲームクラブの生徒
「みんなと楽しくゲームをするのが、やっぱり一番楽しい」 むつ市役所 むつ市が全国に先駆けて部活動の『地域展開』を進める背景には急激な少子化がある。

今年度の市内の中学生の数は1244人で、10年前のおよそ7割に減少した。

さらに7年後には1000人を割り込むという予測もある。 「むつ☆かつ」 こうした中で、むつ市は、将来を担う子どもたちの多様な体験の機会を守りたいと考えたのだ。 むつ市地域クラブ企画推進課 木村浩明さん
「『むつ☆かつ』が始まる前は学校によって部活動の数が限られていた。大きな学校は生徒がたくさんいて部活動がたくさんあったが、かたや子どもの少ない学校は、限られた部活動しかできない状況になっていて、選ぶこともできなかった。子どもたちの数もここから10年先、減っていくことが予測として出ていたので部活動はもう限界だと。どこに生まれてもいろいろな活動を選んでできる環境づくりがいちばん大事だった」 移動手段確保へ 無料バスを運行 むつ市がまず取り組んだのが生徒たちの移動手段の確保だ。 活動の拠点はクラブごとに異なっており、練習場所まで40キロ離れている中学校もあった。

そこで「むつ☆かつ」専用の無料バスの運行を開始したのだ。 無料バス乗車のためのICチップ搭載カード バスには生徒たちの居場所を把握できるシステムも導入した。

バスの乗降の際にICチップを搭載したカードを専用の機器にタッチすると、保護者に通知が届く。

保護者の送迎の負担をなくし、かつ生徒の安全を守る仕組みをつくったのだ。 指導者は身近な人材を 指導者は身近に眠る人材を生かすことに。 経験者を口コミで探し、謝礼を支払ったうえで指導を依頼。

柔道クラブのコーチは地元の海上自衛隊の基地に所属する隊員が、卓球クラブのコーチは市役所の福祉部門の職員が務めてくれることになり、地域の人材が「むつ☆かつ」を支えている。 市役所職員の卓球クラブコーチ
「何か手伝えることがないかというのが始まりだった。子どもたちもやる気があって来てくれているので、少しでも実力を伸ばせるように頑張りたい」 バスの運行や指導者の確保など当然、費用がかかるが、むつ市は年間2億円余りの予算をかけて保護者の経済的な負担を部活動の時と同じ月1000円に抑えている。

そこには、行政が主体となりながら地域全体で子どもたちの成長を後押ししたいという思いがある。 むつ市地域クラブ企画推進課 木村浩明さん
「保護者や学校の先生だけではない大人とたくさん触れ合う機会にもなり、その中で自分の考えを増やしてほしい。学校部活動だけではない経験が『むつ☆かつ』を通してできると思うので、いろいろな経験を生徒たちにしてほしい」 地域クラブを企業が支援 指導者の確保に向けては企業が地方の自治体を支援する取り組みも始まっている。 日本郵政グループでは全国のネットワークを生かして地域クラブの担い手を増やそうと、指導に必要な資格を取得してもらったうえで社員を派遣する活動を始めた。 沖縄県宜野座村のバドミントンクラブでコーチを務める女性もその1人だ。

練習のある日には郵便局での勤務が終わったあと、午後7時から1時間余り指導に励む。

女性のように指導者資格を取得した社員は全国で400人余り。地方での指導者不足の解消に向けて一役買っている。 バドミントンクラブのコーチ
「子どもがやりたいのにできない状況を作りたくないということもあったし、自分がバドミントンをやっているので教えてあげたいと思った」 日本郵政グループのほか、スポーツデータバンク、三井住友海上の3社は去年、それぞれの事業の特性を生かし、『地域展開』の課題解消に取り組む「ブカツ・サポート・コンソーシアム」を設立。

ことしはさらに4社が参画した。 ブカツ・サポート・コンソーシアム 石塚大輔 代表理事（右） 代表理事の石塚大輔さんによると、全国では部活動の『地域展開』を積極的に進める自治体ほど、「生徒の移動手段」や「指導者不足」、さらには「財源の確保」などさまざまな課題に直面しているという。

こうした中で企業の人材やノウハウを活用して『地域展開』を支援していきたいと考えている。 ブカツ・サポート・コンソーシアム 石塚大輔 代表理事
「子どもたちが部活動というシステムでさまざまなスポーツの機会や文化活動の機会を得てきたことは間違いないが、人口減少などによってシステムを続けることが難しくなっていることを考えると、企業がサービスを提供して解決できることはたくさんあると思っている。企業が保有している人材を地域と連携して生かし、課題を解決するというポイントはすごく重要だし、これが1つのモデルになっていくのではないか」 （2025年6月20日「おはよう日本」で放送）