Published: 2025-01-30 08:10

8億円募金しても、裏金問題は帳消しにはなりません。

8億円募金で裏金問題の幕引きを図ろうとしている自民党。ライターの武田砂鉄が憤る。

【写真を見る】幕引きを図ろうとする面々？

1月24日、石破茂首相による施政方針演説は、自民党の裏金問題に対する言及を最小限に抑えていた。通読してみると、「政治資金にしても、選挙活動にしても、重要なことは、有権者に判断材料が正しく提供されることであり、そうした正しい判断材料に基づいて、より幅広い世代のより多くの民意が政治に適切に反映されることです」くらいのもの。

この判断からはもちろん、そろそろ大丈夫なのではないか、国民も忘れ始めているのではないか、野党はまた持ち出してくるだろうけれど、こっちが積極的に応じなければ「いつまでやってんだ」ムードを作り上げられるのではないか、との算段が見える。年末から年始にかけて政治倫理審査会が開かれ、裏金議員たちが口を揃えたように、自分は知らない、そういう習わしになっていた、などと答えていた。

アメリカ大統領就任、韓国政治の混乱、ガザ停戦、中居正広とフジテレビ問題など、大きなニュースが続いたこともあり、テレビだけではなく、新聞紙面も政倫審の様子を伝える記事は極めて小さかった。

確かに記事を書くほうも難しかったはずで、内心としては「こいつらまた同じこと言って逃げてやがる」と書きたいはずだが、さすがにそうは書けない。

斎藤元彦兵庫県知事が何を聞かれても「それにつきましては第三者委員会に……」と答え続けていると、それがなかなかニュースとして報じられないように、とにかく新しい情報・見解を出さないように務め、これまで繰り返してきたことを言い続けると、報じる側がどこかで諦めてしまう。諦めてほしくはないが、「新たに発生した事案を報じる」というタスクには該当しなくなってしまう。

裏金を事務所の引き出しに隠していたことで知られる萩生田光一議員が「文藝春秋」2月号に、「裏金議員、大いに吠える！　それでも政治にカネは必要だ」と題したインタビューに応じている。

「すべての国民に届けるのは難しいけれど、自分なりに誠意をもって顚末を伝えてきたつもりです」などと、「自分なりに誠意」を評価しているのだが、「顚末」とは物事の始まりから終わりを意味する言葉であって、今回の裏金問題は始まりも終わりもわかっていない。

「確かに裏金ありました、すみません、でも、みんなやっていたから、自分もやっただけなんです、これから気をつけます」と中間地点で参加していただけだと言い張る。顚末がわかっていないのに、顚末を伝えてきたと開き直っている。

昨年末、自民党は「赤い羽根共同募金」で知られている社会福祉法人「中央共同募金会」に8億円寄付したことを発表。政治資金収支報告書への不記載額が約7億円で、それを上回る額を寄付した、これが自分たちの誠意と言わんばかり。

裏金問題を追及する声の中に、「だったら募金しろよ！」と訴えていた人がいたとは思えないのだが、問題を帳消しにする目的で「自分たち、募金したんで！」との既成事実を作った。

体の汚れを落とすように使われた組織に対しても失礼だと思うのだが、ちなみに「赤い羽根共同募金」の公式サイトには、共同募金について、「戦後間もない昭和22（1947）年に、市民が主体の民間運動として」始まったものであり、「社会の変化のなか、共同募金は、誰もが住み慣れた地域で安心して暮らすことができるよう、さまざまな地域福祉の課題解決に取り組む民間団体を応援する、『じぶんの町を良くするしくみ。』として、取り組まれています」と書かれている。

この共同募金の経緯と現在を考えると、政治腐敗をカムフラージュするために使うのってまったく失礼な話。政治家の役割はどんな町であろうとも「良くするしくみ」を考えるところにあるわけで、今回の裏金問題で、そんなことより私利私欲を優先させてきた実態が見えてしまった。

そういう人たちはよほどの反省や改善が見られない限りにおいては政界から退場すべきなのだが、早速開き直ったり、周囲と同じ言い分を繰り返したりしながらなるべく報じられないようにしている。

重要なニュースが続いているので（もちろんそれを軽視してはいけない）、冬の間、雪の下でじっと春の到来を待つ植物のように隠れている議員がいる。そのたとえは清らかに強く生きる植物に失礼だが、また出てきた芽に対して、「で、顚末、まだですよね？」と問い直さなければいけない。

文・武田砂鉄 編集・神谷 晃（GQ）