Published: 2025-04-23 17:59

健康保険組合が維持できない？健保連 赤字額 約3800億円見通し

毎月の給料から天引きされている、健康保険料。
皆さんはチェックしていますか？
医療費が増大する中、一人ひとりの保険料の負担額が増え、維持が厳しくなっている健康保険組合も出てきています。

健康保険の仕組みから、負担が増えている背景まで、詳しくお伝えします。

健保連 “1372組合のうち8割近くが赤字か” 大企業の従業員らが加入する健康保険組合で作る健保連＝健康保険組合連合会は、各組合の今年度予算を集計し、23日、公表しました。

それによりますと、加盟する1372の組合のうち、8割近くの1043の組合が赤字になると見込んでいます。

組合全体の収支も3年連続の赤字になる見通しで、赤字額は3782億円になると推計しています。

健保連によりますと、賃上げなどによって保険料収入が増え、収支は、昨年度予算より2800億円改善する見通しですが、いわゆる「団塊の世代」が75歳以上になり、高齢者の医療費を賄うための拠出金も増えることなどから、全体では赤字になるということです。

また、財政の悪化に伴い、平均の保険料率は9.34％となり、これまでで最も高くなると見込んでいます。 健保連 佐野雅宏会長代理
「高齢者の医療費への拠出が今のかたちで続くかぎり、今後も保険料率を引き上げていかざるをえない。負担能力のある高齢者に今まで以上に負担してもらうなど、現役世代の負担軽減につながる制度の見直しが必要だ」 【QA】働く世代の負担はどうなる？健康保険について詳しく Q.「健康保険組合」の厳しい収支報告。その背景は？ A.医療費の増大が要因です。

2023年度の国全体でかかった医療費はおよそ48兆円に上る見込みで、前年度より2.9％増えています。37兆4000億円だった2010年度と比べると28.3％増えています。

国民1人あたりの負担額は2022年度は37万3700円で、その10年前（2012年度）と比べると6万6000円あまり増えています。

厚生労働省は医療費が増えている主な要因として、
▽高齢者の増加や
▽医療の高度化とそれに伴う薬の高額化をあげています。

特に75歳以上の後期高齢者の医療費の増加の伸び率は大きく、2023年度はおよそ18兆6000億円に上る見込みで、全体の医療費の38.8％を占めています。
12兆7000億円だった2010年度より46.2％増えています。 Q.働く世代への負担は？ A.「国民皆保険制度」のもと、働き方や年齢などに応じて私たちは何らかの公的医療保険に加入していますが、会社員などが加入しているのが「健康保険組合」です。

▽主に大企業が自前で設置したり同業種の企業が共同で設立したりする「健康保険組合」のほか

▽中小企業の従業員などが加入する「協会けんぽ」などがあります。

「健康保険組合」では、企業側と従業員がそれぞれ保険料を拠出し、加入者自身の医療費のほか、高齢者の医療費の一部も負担しています。

高齢者のうち75歳以上が加入する「後期高齢者医療制度」は高齢者自身が窓口で支払う医療費を除くと、残りの5割は税金、1割は高齢者本人の年金などから支払われる保険料、そして残りの4割は現役世代が支払った保険料が充てられています。

ことしは団塊の世代が全員、後期高齢者になり現役世代の医療費負担が今後さらに増えると予想されます。 Q.健康保険組合の維持が厳しくなるとどういう影響が出るの？ A.保険料が上がって健康保険組合を維持できないなどとして昨年度1年間で10の組合が解散したり合併したりしました。

健康保険組合が解散されると、その企業などの従業員は「協会けんぽ」に移行します。

協会けんぽには年間およそ1兆2000億円の公費が投入されているため、企業の健康保険組合の解散が続けば公費負担が増えることにつながります。

また、健康保険組合は従業員やその家族向けに業態に合った福利厚生を充実させ、毎年人間ドックの補助を出すなど独自の健康増進策を展開していますが、こうした施策が縮小することも考えられます。 Q.増大する医療費、どう対処したらよいのか。 A.企業の健康保険組合が加盟する健保連＝健康保険組合連合会は今年度の予算会見で、高齢者の医療を支えるための拠出金が年々増加しているとして、「現役世代の負担軽減のため、負担能力のある高齢者には、今まで以上に負担してもらうなど、制度の見直しは避けて通れない」と訴えました。

75歳以上の人が病院にかかった際に窓口で負担する割合の内訳は、2022年度は
▽「1割」が73％
▽一定以上の所得がある人で「2割」が20％、
▽現役並みの所得がある人で「3割」は7％でした。

医療経済に詳しい専門家は「定年が延長される中、ある程度収入がある高齢者に対しては現役世代と同程度の医療費の負担率を求めるなど、医療制度を守るために国民も交えて議論すべきだ」と話しています。 保険料率11％ それでも組合を継続する理由は 高齢者の医療を支えるための拠出金など、医療費の増加が現役世代に重くのしかかっています。

さいたま市大宮区にある時計などの精密機械の製造や販売を行う「リズム」は、従業員やその家族およそ1300人が加入する健康保険組合を設置しています。

毎月の保険料が給与の何％にあたるかを示す「保険料率」は、健保連が発表した今年度（2025年度）の1372組合の平均は9.34％でしたが、この会社の健保組合は11％でした。5年前と比較して1.5ポイント上がっています。

保険料率が増えるということは、企業と従業員の負担が増すということですが、高齢者への拠出金を支払うためにはやむをえませんでした。

この会社の健保組合では、昨年度の保険料の収入はおよそ3億8400万円で、34％にあたるおよそ1億2900万円を65歳以上の高齢者の医療費として拠出しました。

残りの66％のおよそ2億5500万円を従業員が病気になった際の医療費のほか人間ドックの補助といった保険事業などに充てました。

この会社の健保組合では、高齢者への拠出金のほかにも、がんなどの治療や薬が高額化していることも保険料をあげることにつながっているといいます。

数年前には、がん治療を受ける従業員の高額な薬剤費などの影響で、保険料を引き上げざるをえない時もあったということです。

健保組合の担当者は「高齢者を支える拠出金が増える一方で、高額な薬剤も増えているので、以前よりも1人当たりの医療費が格段に上がっています」と話していました。 保険料率が10％を超えると、健保組合を解散して主に中小企業などの従業員が加入する「協会けんぽ」に移行したほうが、従業員一人ひとりの保険料を抑えられるとされています。

この会社の健保組合の保険料率は11％ですが、従業員の健康維持のため、組合を継続するとしています。

従業員一人ひとりの健康増進の取り組みをよりきめ細かく進めるためです。

人間ドックやがん検診への補助のほか、従業員に健康への意識を高めてもらおうと、野菜の摂取量を測定する装置を社内に導入。 さらに、薬の処方目的だけで医療機関を受診することを控えてもらおうと、会社のホームページで市販薬を割引きで購入できる取り組みも進めています。

こうした取り組みで医療費の抑制につなげようとしていますが、高齢者への拠出金が増加した影響などで独自の健康施策に使える費用が縮小したことから補助金を削減するなど取り組みの一部を縮小したり辞めたりせざるをえない状況だということです。 「リズム健康保険組合」 相澤竜也 理事長
「予防に力を入れて、少しでも医療費の負担を抑えようとしているが、そうした努力も高齢者への拠出金の増加でできなくなっているところがあり非常に重たい課題だと考えている。今は従業員の確保が難しい時代でもあり、会社を選ぶときに福利厚生への関心が高くなっているとも聞くので、従業員確保の観点でも健康保険組合を充実させることは重要だ」と話していました。 専門家 “医療制度守るために議論すべき” 医療経済に詳しい中央大学大学院戦略経営研究科の真野俊樹教授は、健保連に加盟する健康保険組合の8割近くが赤字となっていることについて「健康保険組合は本来働いている従業員に対して健康を確保し生産性の向上につなげるためにしっかりと医療を提供することが目的だが高齢化に伴い高齢者の医療への拠出金が増え、働く人どうしが助け合う仕組みから高齢者をサポートする組織のようになりつつある。それに加えて医療の高度化に伴い治療費などが高額になっているため、財政をさらに圧迫する状況になっている」と指摘します。

その上で真野教授は、高齢者が増加し医療費が増大していることについて「定年が延長され、全世代が働く社会になってきている中、ある程度収入がある高齢者に対しては現役世代と同程度の医療費の負担率を求めるなど、非常に難しい問題だが考えざるをえないのではないか。政府は医療制度を守るために必要な医療のあり方について国民も交えた場を持って、議論すべきだ」と話していました。