Published: 2025-07-28 12:10

【GQ読書案内】寝苦しい夏に読みたい──涼を感じる5冊

編集者で、書店の選書担当としても活動する贄川雪さんが、GQ読者におすすめの本を紹介。今月は「寝苦しい夏に読みたい、涼を感じる本」をセレクト。

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7月も残り数日となり、毎日暑さが厳しい今日この頃。今月は、この暑さを紛らわせてもくれそうな、読んで涼しさを感じられる“納涼本”を紹介する。

『山怪実話大全　岳人奇談傑作選』（編＝東雅夫、山と渓谷社） 工藤隆雄『定本　山のミステリー　異界としての山』（山と渓谷社）

「読んで涼しさを感じる本」と言われて最初に思いつくのは、やはり怪談だ。『四谷怪談』や『皿屋敷』など落語や歌舞伎の演目にもなっている古典の怪談や、古今東西のミステリー・ホラー小説など、背筋が凍りそうな怖い物語（フィクション）はあげればキリがない。そこで今回は、山を舞台にした怪談“実話”を扱った2冊を紹介したい。

工藤隆雄さんの『山のミステリー』は、工藤さんが山行の際に泊まった山小屋の主人や、出会った登山者たちから聞き集めた、この世の現象とは思えない奇妙な56の実話集だ。山の幽霊と出合った体験、霊視ができ遭難しそうな人や遭難遺体の場所を言い当ててしまう支配人の逸話、UFOや火の玉の目撃談といった、山での怖い話が紹介される。

いっぽう『山怪実話大全』は、怪奇幻想文学専門のアンソロジストの東雅夫さんが、登山家や山に造詣の深い作家たちが体験した奇妙な体験記をセレクトし、1冊にまとめたものだ。山岳を舞台とした作品でも知られる作家の夢枕獏さんの「不思議な山」や、岳人作家の深田久彌による「山の怪談」、小説家・劇作家で数多くの怪奇小説を残した岡本綺堂や民俗学者の柳田國男のテキストなど、全26作が収録されている。

嘘のような恐ろしい話もあれば、自分の子どもの頃の体験かのように親近感を感じられる話もあって、“納涼度”はさまざまだが、どれも「本当にあった」話たちだと思うと、背筋がひんやりとしてくる。ひとたび読み始めると、面白さと怖さでますます眠れなくなってしまうかもしれない。