Published: 2025-06-12 05:50

奄美大島など “生き物を島の外へ持ち出さないで”声明発表へ

世界自然遺産に登録されている鹿児島県の奄美大島や徳之島に生息する希少な動植物が、販売目的などで大量に捕獲されるケースが相次いでいる事態を受け、行政と民間企業などが、生き物を島の外へ持ち出さないよう求める共同声明を、近く発表することが分かりました。

奄美大島や徳之島では、クワガタなどの昆虫や、両生類を中心とした希少な動植物が捕獲され、島外に持ち出されるケースが、近年相次いでいます。

5月には奄美市で、国の天然記念物のオカヤドカリ5000匹余りを販売目的で捕獲・所持したとして、中国籍の3人が逮捕されました。

こうした事態を受け、地元の自治体や環境省、それに民間企業などは、島のすべての生き物を島外に持ち出さないよう求める共同声明を、近く発表することが分かりました。

声明では、島の自然は長い時間をかけて成立していて、1つ1つの生き物が生態系の中で重要な役割を果たしているとして、捕獲や持ち出しをしないよう求めるということです。

声明文は、関係機関のホームページに掲載したり、観光施設などにポスターを掲示したりして、島を訪れる観光客に広く発信される予定で、島民にも取り組みを知ってもらい、地域全体で監視していくねらいもあるということです。 声明の発起人で、日本航空鹿児島支店奄美営業所の栄正行所長は「空港では明らかに商用目的と思われる大量の生き物の持ち出しを多く確認している。島を訪れる方々には、民間や行政、そして住民のみんなが島の宝を守ろうとしている思いを受け取ってもらい、島の中で生き物を楽しんでもらいたい」と話しています。 声明を提案した航空会社 “見過ごせない実態が” 「島の生き物を持ち出さないでほしい」という声明の発表を提案した地元の航空会社は、背景には見過ごせない実態があると指摘しています。

奄美大島の空の玄関口、奄美空港では、4年前の2021年から、全国でも珍しい水際対策が導入されています。

荷物検査などで生き物を検知した場合は、航空会社の職員がタブレットのチャット機能を使って環境省や自治体の職員などと写真やテレビ電話でやり取りし、生き物の種類や捕獲場所について確認します。

「種の保存法」や「文化財保護法」などで捕獲や輸出入が規制されている生き物が島外に持ち出されるのを防ぐことがねらいです。

一方で、規制のない生き物については、そのまま持ち出しが認められ、販売目的と思われる大量の持ち出しも多く確認されています。 2023年には、奄美群島の固有種で「販売目的の過剰捕獲は避けるべき」とされている準絶滅危惧種の「アマミシリケンイモリ」が1000匹近く、“貨物”として島外に持ち出されたこともあったということです。

航空会社の職員は「検査に時間的な制約がある中で、規制の対象外の生き物とはいえ、かなりの数が持ち出されていて、個体数が減り、生態系のバランスが崩れてしまうのではないかと、ずっとモヤモヤしていました」と打ち明けました。

こうした声を受けて、日本航空が環境省や自治体に呼びかけ、種を限定せず島の生き物すべてを持ち出さないよう呼びかける声明の作成につながったということです。

日本航空鹿児島支店奄美営業所の栄所長は「1つ1つの動植物が島の生態系の重要な役割を担っていて、それをみんなで守っていこうという空気感を作りたいと考え、声明の発表を呼びかけた。島を訪れる方々にはその思いを受け取ってもらいたい」と話していました。 WWFジャパン “地域が総意の意思表示 先進的事例に” 野生生物の取引を監視する環境NGOの「WWFジャパン」によりますと、奄美群島の動植物は固有種が多く、珍しさや美しさを求めて、違法取引が多く確認されているということです。

2018年に行った調査では、南西諸島固有の、は虫類や両生類67種のうち、半数以上にあたる37種が、海外を含めた市場でペットとして取り引きされていたということです。

中でも「アマミシリケンイモリ」は、2019年までの10年間に、野生で捕獲されオンラインで販売された可能性が高いとされる個体が6000匹近くにも上っていたということです。 「WWFジャパン」南西諸島担当の小田倫子さんは、水際対策や法規制の強化には限界があるとしたうえで、今回の声明の意義について「刑罰がないルールであっても、奄美群島は地域の総意として“生き物を持ち出してほしくない”という意思表示があり、監視も徹底されていることをアピールすれば、違法な持ち出しを避けられるようになるのではないか」と指摘しています。

そのうえで「世界各地で密猟や密輸が問題となる中、先進的な事例であるし、あとに続いてほしい動きだ」と話していました。