Published: 2025-04-27 19:19

「ナパーム弾の少女」今も平和の尊さを訴え続ける

ベトナムでは、東西冷戦のさなか民族解放を掲げる北ベトナムとアメリカの支援を受けた南ベトナムの戦闘が泥沼化。燃え盛る村を背に泣き叫びながら逃げる子どもたちの写真は世界に衝撃を与え、ピュリツァー賞も受賞しました。

戦争の終結から30日で50年。この写真に写り「ナパーム弾の少女」と呼ばれた女性は、加害者側だったアメリカの元兵士などに立場の違いをこえて平和の尊さを訴え続けています。

目次 「ナパーム弾の少女」とは? キム・フックさんの思い 反戦メッセージ伝える退役軍人も 目次を開く 目次 目次 「ナパーム弾の少女」とは? キム・フックさんの思い 反戦メッセージ伝える退役軍人も 「ナパーム弾の少女」とは? 4月30日で終結から50年を迎えるベトナム戦争では、兵士や民間人をあわせたベトナム側の死者は、300万人以上にのぼったとも言われています。

このベトナム戦争のさなかに撮影され、アメリカの世論を変えたとも言われている写真が、「ナパーム弾の少女」です。

1972年、今のベトナム南部ホーチミン近郊の村で撮影された1枚の写真には、爆撃で燃え盛る村を背に、泣き叫びながら逃げてくる子どもたちが捉えられています。

その中央に写っているのが、当時9歳だったファン・ティー・キム・フックさんです。

ナパーム弾によって大やけどを負ったキム・フックさんは病院に搬送され、一命を取り留めましたがその後も手術を繰り返し、後遺症に苦しんできました。

キム・フックさんは、1992年、夫とともにカナダに亡命し、1997年にはユネスコ＝国連教育科学文化機関の親善大使となったほか、みずから財団も設立しています。

ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年には、ポーランドに向かい、ほかの支援団体と連携して、ウクライナから逃れてきた人たちをカナダに迎える活動にあたるなど、戦争や暴力の被害に苦しむ子どもたちの支援を続けています。 キム・フックさんの思い キム・フックさんは3月、アメリカ中西部オハイオ州で開かれたベトナム戦争の退役軍人たちの集いに招かれました。

この中で、「ナパーム弾の少女」の写真を見せながら、「世界をはっとさせた写真、私の人生を定義づけた写真です。9歳の私は国道を駆けていました。無表情の兵士たちの前を、腕をまっすぐに伸ばし、裸のまま、痛みと恐怖の中、全力で走り抜けていました。私が標的になったわけではありません。ただ、タイミング悪く、あの場所にいただけです」と当時の状況について説明しました。

今もやけどの治療を続けていることや新婚旅行から留学先のキューバに戻る途中でカナダに亡命したこと、そしてベトナムに従軍したアメリカの元兵士たちを許せるようになった心の変化を語りました。 アメリカへの憎しみをコーヒーに例え、「私の心は悲しく、怒り、憎しみ、痛み、喪失感、すべてがネガティブで、ブラックコーヒーのようでした。それでも、毎日少しずつ憎しみを吐き出すように、いっぱいのコーヒーを注いでいくような想像をすることで、コーヒーは少しずつ減っていきました。そしてある日、コーヒーはなくなり、空っぽになったのです。妻であり、母、そして祖母であり、平和を求める生存者である今の私を見てください」と訴えました。 会場で退役軍人やその家族たちと記念撮影に応じたキム・フックさんは、「過去にあったことは変えられません。私のように、過去を切り離して前に進まなければなりません。私が生きているということは伝えられます」と話し、戦争の被害者でありながら、ベトナムで戦ったアメリカの元兵士たちとも交流を深める意義を強調しました。

そしてウクライナやガザなど、世界各地で続く戦争や紛争について、「ニュースを見るたびに、戦争が終わってほしい、もうこれ以上人を殺すのはやめてほしいと願っています。私たちは、『戦争反対』ということばを広げていかなければなりません」と話していました。 反戦メッセージ伝える退役軍人も オハイオ州に住むチャック・バンブールヒスさんもキム・フックさんの話を聞こうと妻と一緒に会場を訪れました。

バンブールヒスさんは、1968年から1年余りベトナム戦争に従軍しました。

ベトナムから戻った後は反戦デモにも参加しましたが、その一方で、ベトナム戦争で命を落とした兵士たちが加害者として、悪者のように扱われることに複雑な思いもあると言います。

こうした思いからバンブールヒスさんはPTSD＝心的外傷後ストレス障害を抱えていて、半世紀以上たった今も毎週末、退役軍人を対象にしたグループカウンセリングに参加しています。

バンブールヒスさんは、自分自身の心のケアにもつなげようと、およそ40年前から、地元の町で、定期的にベトナム戦争に関する展示会を開いています。

当時の軍服や妻にあてて書いた手紙など、自分が持っているもののほか、遺族から譲り受けた品なども展示しています。この展示の中で、バンブールヒスさんは、「ナパーム弾の少女」の写真についても、ベトナム戦争に対する世論を変えた写真だと説明してきました。

バンブールヒスさんは今でも、13か月間のベトナムでの日々が、自分の人生を決定づけたと考えていて、「ベトナムで起きたことを思い浮かべない日は1日もありません。誰かが焼きごてを脳に押しつけるような感じです。それは決して変わりません。べトナムでは時間をむだにしました。子どもたちには、私と同じ過ちをしてほしくありません」と強調し、反戦のメッセージを若い世代に伝え続けていきたいと話していました。