Published: 2025-05-26 21:53

老朽化する病院 「築40年以上」全国に1600余 NHK調査

いま、経営難に陥る病院が増える中、建物の老朽化が大きな課題となっています。法定耐用年数を超える「築40年」以上の病棟を持つ病院が、全国で1600余りあることがNHKの調査でわかりました。
耐用年数を超えても建物は使い続けられますが、専門家は「建築費などが高騰し、老朽化しても建て替えられない病院が相次ぐおそれがある」と指摘しています。

目次 「築40年以上」なぜこれほど多いのか 病院の老朽化 都市部でも深刻化 建て替え困難 病院の経営悪化も深く関わる 行政と民間病院が連携 建て替えを進めたケースも 専門家「統合・再編など集約化を議論することも大切」 病棟の築年数を分析 最新結果は 目次を開く 目次 目次 「築40年以上」なぜこれほど多いのか 病院の老朽化 都市部でも深刻化 建て替え困難 病院の経営悪化も深く関わる 行政と民間病院が連携 建て替えを進めたケースも 専門家「統合・再編など集約化を議論することも大切」 病棟の築年数を分析 最新結果は 病院をめぐっては、物価高や人件費の高騰などで経営環境が悪化し赤字に陥るケースが増えていますが、そうした状況に追い打ちを掛けていると指摘されるのが、建物の「老朽化」です。

NHKは、各地の病院が2023年に都道府県に提出した「病床機能報告」のデータを基に、病棟が完成した年を回答した全国6000余りの病院を調査しました。

その結果、法定の耐用年数を超える「築40年」以上の病棟を持つ病院が全国で1623か所あり、全体のおよそ27％に上ることがわかりました。

都道府県別では、東京都が147か所と最も多く、次いで大阪府が134か所、北海道が96か所などと都市部や地方を問わずに広がっています。

さらに、中でも「築50年」以上の病棟を持つ病院は全国で568か所（9.3％）、「築60年」以上の病棟を持つ病院は151か所（2.4％）ありました。

また、築40年以上の病院のうち半数以上の834か所は救急医療を手がけていて、このうち入院が必要な患者を受け入れる「二次救急病院」は748か所、より重篤な患者を受け入れる「三次救急病院」は65か所あり、地域医療の要となる病院でも老朽化が進んでいる実態が見えてきます。

法定耐用年数を超えても建物を使い続けることはできますが、経営環境の悪化や建築費なども高騰する中、費用を工面できずに診療を休止するところも出てきています。 「築40年以上」なぜこれほど多いのか 日本では、戦後の経済回復や国民皆保険制度の発足などで医療需要が高まり、数多くの病院が建設されました。

国内の病院数は、今から70年前の1955年（昭和30年）には、全国で5119か所でしたが、その後、飛躍的に増加。ちょうど40年前の1985年（昭和60年）には、2倍近い9608か所となりました。厚生労働白書によりますと、この頃には必要な病床数の確保がほぼ達成されたということです。

こうした、戦後から昭和後期に掛けて数多く建てられた病院がいま、法定の耐用年数を超える「築40年以上」となってきているのです。病院の数は1990年に1万96か所と最も多くなり、その後は現在まで緩やかに減少傾向が続いています。

一方、築40年以上の病棟を持つ病院では建て替えを検討する所も出てきていますが、その大きな壁となっているのが建築費の高騰です。

厚生労働省によりますと、病院と診療所の1平方メートルあたりの建築費は2014年には26万円余りでしたが、2024年は46万円余りと、10年間でおよそ1.8倍に増加しています。

さらに特に都市部では、建て替えるための用地の確保も容易ではなく、一部の病院では、存続も含めた経営判断を迫られています。 病院の老朽化 都市部でも深刻化 東京では、救急医療を担ってきた病院が建て替えできずに診療の休止に追い込まれる事態も起きています。

東京 武蔵野市にある「吉祥寺南病院」は、病棟の建て替えが難しく、2024年10月から診療を休止しています。

この病院は入院や手術が必要な救急患者を24時間受け入れる「2次救急医療機関」で、年間およそ2000件の救急搬送を受け入れてきたほか、災害時には中等症の患者などに対応する「災害拠点連携病院」にも指定されていました。

しかし病院を運営する医療法人によりますと、診察室や入院患者の病室などが入る病棟が築50年以上で老朽化が進んだため、建て替えを検討しましたが、建築資材の高騰などで断念せざるを得なかったといいます。

このため病院はすべての診療を休止し、入院していた患者は転院を余儀なくされました。

また、吉祥寺南病院で救急患者の受け入れを中止したことで、その分、ほかの病院に患者が搬送されるようになり、一部の病院では負担が増えています。

近くに住む80代の男性は「家族が救急搬送された経験もあり、いちばん身近で頼りにしていた病院なので、診療休止となり困っています」と話していました。

去年9月まで院長を務めた藤井正道医師は「水漏れがあったり、エレベーターは止まりかけては直してもらったりしていて、建物自体の限界は近づいている状況でした。地域の救急医療を守り続けてきた病院なので、大変悔しく、申し訳ない気持ちです」と話しています。

医療法人によりますと、運営は今後別の法人に引き継がれることが決まり、新しい病棟が建設される予定ですが、診療を再開するには少なくとも3年程度かかる見通しだということです。 建て替え困難 病院の経営悪化も深く関わる 東京 三鷹市の野村病院は「二次救急病院」で、病棟の築年数はことしで58年になります。かつては心臓の外科手術などの専門性の高い急性期医療を中心に行ってきましたが、これから中長期的に高齢者の増加が見込まれることから、現在は高齢者の救急医療やリハビリテーションなどにも力を入れています。

年間で2000台近くの救急車を受け入れるなど、地域でニーズの高い医療を担っています。

取材を行った日にも、下血の症状を訴えて自宅から救急搬送された90代の女性に対し、医師が検査や点滴などの対応を行っていました。

脳梗塞の治療を受け、入院している70代の男性は「体のまひが残っているので、自宅に戻るためにもリハビリをしっかりと行ってくれる病院はありがたいです」と話していました。

病院は、地域の医療を支え続けるために、近い将来、病棟を建て替える必要性も感じていますが、頭を悩ませているのが経営状況の悪化です。

24時間の救急医療などに対応するには看護師をはじめ多くのスタッフが必要ですが、人手を確保するのは容易ではありません。人材紹介会社に頼るなどしていますが、紹介手数料などは年間で7000万円を超え、経営を圧迫しているということです。

さらに最近の物価高などの影響も重なり、コロナ禍以降は医業利益が赤字の状態が続いています。

できるだけ建物を長く使えるよう、おととしには7億円をかけて院内を修繕しましたが、いまも一部では雨漏りが発生するなどしていて、近い将来に建て替える必要性を感じています。

病院を建て替える場合、入院患者の居場所を確保するには、いまの病棟を残したまま新しい病棟を建設しなければならず、そのためには新たな用地が必要になります。

ところが土地の価格が上昇していて、病院は周辺の用地の購入を進めているものの、まだ十分には確保できていないということです。 野村病院の野村幸史理事長は「物価高が続き、人件費も増加していて、中小の民間病院の経営は非常に厳しい状況にある。ほかの病院とも連携して地域の医療を提供するなど、病院側が変わっていくことも必要だが、病院の努力だけでは難しいこともある。特に都市部で病院を建て替える場合、『建築費の捻出』と『土地の確保』という2つの難題があり、行政の支援策も必要だと感じる」と話していました。 行政と民間病院が連携 建て替えを進めたケースも 山形県米沢市では、一部の病棟が築50年を超えていた市立病院と築40年を超えていた民間病院が連携し、2023年、市立病院の敷地内に2つの病院を共用部分を挟んで連結する形で、建て替えを行いました。

総事業費は市立病院でおよそ162億円、民間病院でおよそ87億円でしたが、病院どうしを隣接させたことで、電気などを供給する施設や、入院患者の食事を作る給食センターなどの施設を1つにまとめることができ、個別に建て替えるよりも費用を抑えることができたといいます。

民間病院は市の所有地を借りる形となり、自前で土地を取得する必要はありませんでした。

また、建て替え前はどちらの病院も救急や手術などの急性期医療を手がけてきましたが、将来的な医療ニーズの変化を見据えて機能分担を図り、市立病院では急性期医療を、民間病院ではリハビリなどの回復期医療を担うようにしました。

これによってMRIやCTなど高額な医療機器は市立病院に集約し、民間病院は必要な時にそれらを利用することにしました。

民間病院では設備投資や維持費用を削減でき、市立病院は機器の使用料を民間の病院から受け取ることができます。

2つの病院では、限られた医療資源を効率的に活用しながら地域に必要な医療を維持していきたいとしています。 専門家「統合・再編など集約化を議論することも大切」 築40年以上の病棟を持つ病院が全国で1600余りにのぼることについて、医療政策が専門で奈良県立医科大学の今村知明教授は「ここ数年、建築費などが高騰し、老朽化した病棟を建て替えられない病院が日本中にあるとみられ、地域に不可欠な病院が閉院せざるを得ない事態も起こりうるとても大きな問題だ」と指摘しています。

今村教授は、特に都市部は土地の価格が高く新たな用地を確保することが難しい中で、さらに建築費が高騰して建て替えが非常に難しくなっているとしたうえで、「高齢者が増加して医療のニーズが高まっている地域でも、財政的に持たない病院が出てくるおそれはある」と指摘しています。

そのうえで、「病院だけの経営努力では解決できない場合、国や自治体の支援が必要になってくるが、一方で、行政も日本中の病院を支えるほどの予算はない。それぞれの地域で『今後、必要となる医療機能は何か』を話し合い、場合によっては病院同士の役割分担や統合・再編などの集約化を議論することも大切だ。医療の経営環境は厳しさを増していて、このままでは建て替えが難しいケースも相次ぐおそれがあり、老朽化が進む病院はどの医療機能を残して集約化を図っていくか決断を迫られる場合もある」と話しています。 病棟の築年数を分析 最新結果は 今回、NHKは、一般病床と療養病床を持つ全国の病院が毎年都道府県に提出している「病床機能報告」を基に、病棟の築年数を分析しました。

「病床機能報告」には、病棟が完成した年や、病院がどのような医療を提供しているかなどの情報がまとめられています。

最新はおととし7月時点のもので全国6974の病院が報告していますが、このうち病棟の完成時期を回答している全国6052か所のデータを調べました。

それによりますと、ことしで「築40年」以上となる病棟を持つ病院は1623か所で、回答した病院の26.8％でした。

さらに「築50年」以上は568か所で9.3％、「築60年」以上は151か所で2.4％でした。

また、「築40年」以上の病棟を持つ1623の病院のうち、半数以上の834か所は救急医療を手がけていて、このうち入院が必要な患者を受け入れる「二次救急病院」は748か所、より重篤な患者を受け入れる「三次救急病院」は65か所ありました。

さらに、1年間に救急車を2000台以上受け入れている病院も165か所あり、地域の救急医療を支えている病院でも築年数の長いところが少なくありません。

今後は高齢者の増加で全国的に在宅医療のニーズが増加するとみられていますが、「築40年」以上の病院の中には、24時間体制で往診などを行う「在宅医療支援病院」も468か所ありました。

設置主体別では、民間の医療法人が最も多く1157か所、都道府県と市町村が設置する公立病院は151か所でした。

今回、調査したのはおととし7月時点の報告であり、それ以降に病棟を建て替えたケースや、建て替えではなく修繕などで老朽化に対応しているケースは集計できていません。

都道府県別の、「築40年」以上の病棟を持つ病院の割合は以下の通りです。
※いずれもおととし7月時点※

北海道24.2％青森　40.7％岩手　36.6％宮城　20.6％秋田　20.9％山形　22.2％福島　39.3％茨城　24.8％栃木　21.6％群馬　18.1％埼玉　28.6％千葉　27.9％東京　29.7％神奈川　30.2％新潟　20.5％富山　17.1％石川　26.6％福井　20.4％山梨　31.1％長野　34.1％岐阜　19.4％静岡　14.5％愛知　26.1％三重　21.7％滋賀　26.7％京都　34.1％大阪　35.2％兵庫　25.6％奈良　19.6％和歌山33.3％鳥取　26.5％島根　18.8％岡山　29.8％広島　25.0％山口　30.6％徳島　22.8％香川　26.7％愛媛　32.1％高知　32.6％福岡　23.8％佐賀　17.8％長崎　32.1％熊本　28.2％大分　18.5％宮崎　16.5％鹿児島23.9％沖縄　28.1％